第4話 家庭訪問みたいです

「その、佐比内さん」

「え?あ、はい」


 教室に戻って整理添削した後、念のため声をかけた。


「プリント渡すよう頼まれたんだけど、詳しくは佐比内に聞いて、一緒に行ってほしいらしくて。今日の放課後、付き合ってくれないかと……」

「いいですけど……私と長倉さんの2人でですか?」


 あいつ声かけてくれてなかったか。

 席に戻ってきていた琳へ視線をやるとスマホが震える。


『浮気だよ?』


 そういえば誤解を解いてなかった。いや、付き合ってないんだが……。


「あれなら琳も一緒に行く?だろうし」


 自分で言っておいてあれならってなんだ。


「そ、それなら是非」


 それならってなんだ。

 まぁ、琳も連れて行きがてら誤解が解ければいいか。


「次の駅で降りますね」


 電車で3駅。都会ならそうでもない距離だろうけど、学校からはざっと30㎞といったところだろうか。


星那せなちゃんが今日休んだ理由は体調不良って聞いてたけど、スポドリとプリンぐらいなら食べれるよね」

「ま、溶けないからな……」

「その、私の分までありがとうございます」


 駅の近くのスーパーで買い出しするなか、琳の誤解と長倉の小遣いは溶けた。


「いや、まあ、付き合ってもらってるし全然気にしないでくれ」


 自分に言い聞かせることで納得する。

 切り替え大事。うん……。


「その、山本の家に行く前に聞いときたいことがあったんだけどいい?」


 聞くならここしかないだろう。


「はい」

「その山本となにをやらかしたのかなんだけど」

「……」

「なに?陽菜ちゃん、何かやらかしたの?」


 一拍おいて話し出す。


「その、大したことじゃないんですけど。道すがら転んでしまって……」

「え、大丈夫だったの?」

「その、おでこの生え際当たりがスースーするなぁとは思ってたんですけど。行かなきゃと」

「もしかして、そのまま?」

「玄関で呼び鈴を鳴らしたら、即刻救急車を呼ばれました……反省してます」


 血塗れな人がいきなり玄関に立ってたら誰だって怖いだろう。


「いや、うん。誰も悪くないぞ?強いて言うなら間が悪かったんだ……ん?」


 もしかして、俺の役割って佐比内が無事辿り着けるようにする人柱か!


「どうかしましたか?」

「よし、何があっても俺が佐比内を守る。俺じゃ頼りないかも知れないけど佐比内の側にいるから」

「!?」

「こう見えて俺、鹿の親子連れから琳を守った経験があるんだ」

「へ?し、鹿……ですか?」


 そう、親子連れは特に危ないあいつら馬鹿だから。

 ま、駅から近いとは聞いてたからそろそろ着くんだろう。

 10分ぐらい歩いてる俺の田舎感覚いなかかんかくがそう囁いている。


「ここです」

「立派だね」

「門がある家ってこの辺でもそうないよな?」

「このあたりだとそうかもしれないですね」


 門の前にある表札とは別に『有形文化財』って看板がついている。


「車は……ないですね」

「人いないかもな」

「とりあえず行ってみよっか。鍵開いてるし」

「ですね」


 敷地内へと入っていく佐比内に、琳、俺と続く。


「まぁ、夕方だからな」


 田舎あるある、夜以外基本鍵締めない。

 最近夜は締める。獣とか来るから。


「じゃ、呼び鈴押しますね」


 鳴ってる感じはしないが玄関に人の気配が近付いてくる。


「鳴ってる?」

「立派な家だからな響いてるんだろ多分」


「あ……はい」


 出迎えてくれたのはエプロン姿にマスク、おでこに冷えピタを張った金髪の女子だった。


「あ、いきなり押し掛けてすみません。私、山本さんと同じクラスの」

「あ!あんたあの時の血塗まみれ女!?」

「その……」


「おねーちゃん、どこ?」


 妹さんだろうか、トコトコと歩いてきた。


「わー!かわいい妹さんかな?」

「?」

「僕、りん!お名前なーに?」

「ひま!」

「ひまちゃんかー」


 なんかカオスな空間になってきたな。


「んん、あの」

「あんた……ゴホッ誰?」


 一般的いつもどおりな反応に浮かれていたらしい長倉が、少し落ち着きを取り戻す。


「木梨先生に言われて、プリントを届けに来た山本と同じクラスの長倉です」

「そ、それはどーも」


 体調不良というのは本当らしい。


「あ、星那ちゃん!これ、差し入れ。みんなで買ってきたんだー」

「え、あ、ありがと……」

「なになに?」

「なにかなー?」


 こういう時、さらっと渡せる琳が少し羨ましい。


「その!お身体の方は大丈夫ですか?」

「あー……まあ。なんとか」


「ひま、かんびょーしてるの」

「偉いねー」


 ひまちゃん?そのタオル絞ったかなー?廊下びっちゃびちゃなんだが。

 現状、面等をみれるのが山本しかいないのだろう。


「その、もしよければ看病のお手伝いをさせていただけませんか?」

「んん、いや、でも移すと悪いし……。ひま、そろそろお母さん帰ってくるから床きれいにしようね?」


「わかったー!」


 トコトコ戻っていく。

 あぁ、足跡が相まって惨状に……。


「そっかー、明日は来れそうなの?」

「熱下がったら行く……」


 ふと思ったが病人を玄関でずっと話し込ませるのは良くないだろう。


「佐比内の気持ちも分かるけど。病人を立たせとくのもあれだろうし、うん」


 秘技あれ。そう。あれだろうし。


「だね。星那ちゃんのお母さんも帰ってくるぽいし」

「そう、ですね」


「その、来てくれたのは嬉しかったし、その、ありがと……」


「はい!」

「よし、じゃあ帰りますか」

「だな」


 確かなのは、マスク越しに冷えピタの状態でも美人は美人ということだ。

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2024年9月21日 17:30

俺もラブコメしてみたいです 千早古 @Tihaya-furu

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