第3話 呼び出しされたみたいです

 職員室に呼び出しをくらった長倉。


「ん?あ、長倉ながくらか……」

「先生が呼んだんですよね?」


 机のとこまで来た長倉に回る椅子の背もたれに完全身体を預けた姿勢でぐるんと回る木梨きなし先生。


「まあ、来なかったら放送かけてたから……」

「ちょ、先生?その、見えてますから」


 度重なる連勤でできたクマを除けばスタイルもいい美人である。

 そんな先生の隠してある谷間が無防備で見えたというエロスに、目を背ける長倉。


「ふ、これはお礼のつもりだったが長倉はさすが、紳士的だな」


 くるっと向き直し姿勢を整える木梨先生。


「あぁ……」

「健全な男子高校生でもあるようだ」

「そういうのは先に言ってもらわないと困るんですけど」

「まぁ、この続きがあるかは長倉次第だな」


 頑張れ俺。頑張るぞ俺。


「んん……それで、呼び出しってことは、俺なんかやっちゃったんですか?」

「いや、そう心配そうな顔しなくていい。折り入って頼みがあってね」


 ガタガタっと立て付け悪い引き出しからプリントを取り出す。


「く、これをある生徒のとこに届けてほしいんだ」

「はぁ……」

「なぜ俺に?という顔だな」


 なぜ分かった。


「クラス委員の佐比内さひないに何度か頼んでたんだが、その時ちょっとやらかして警戒されてるみたいでな」


 佐比内さひない陽菜ひな

 茶髪に眼鏡、その奥に整った顔立ちを感じるも控えめなスタイル同様、優しそうな委員長と言った感じ。

 とても何かをやらかすようなタイプには思えない。


「警戒て、相手は野良猫か何かですか」

「ウチのクラスの遅刻常習犯かんがえものだ。ま、野良猫じゃないが山本やまもとは美人だぞ?相応のかわいさは補償しよう」

「やらせてください」


 届けるだけでポイントアップ、加えてかわいさが補償されている。今まで空気の俺が、かわいい女の子と話せるだけで勝ちといっても過言じゃないだろう。


「ただ、生徒の個人情報をそう易々と教える訳にはいかないご時世だ。クラス委員の佐比内には前伝えてあるから、一緒に行ってもらうのが条件になるけど」

「あ、そういえば今日は」

「良い天気だな。じゃあ、よろしく頼んだぞー」


 もしかして、俺の脳内まで把握されてる?


「あ、弥彦やひこ戻ってきたんだ」


 晴れてウチのクラスとなった不動ふどうが廊下より教室に戻る長倉に駆け寄る。


「まぁ……、あ、そうだ。りんって佐比内と面識あるか?」

「同じクラスなんだからあるに決まってるでしょ?」


 あるに決まってるんだ……。


「良かったら放課後ちょっと声かけてくれないか?俺が用があるって言ってたと」

「……」

りん?」

「何の用なの?」


 なんのと聞かれると説明が難しいな。


「ざっくり言うと」


 ポイントアップ、ついでに女子と話せる、警戒されてる家庭訪問、プリントを渡す、クラス委員と一緒、個人情報……。


「警戒されてるクラス委員の女子と話しつつ、家庭訪問でプリントを渡してポイントアップ、ちょっと個人情報について話すだけだ……ん?」


「弥彦……3股!?浮気者!」


 人に説明する時は一旦書き出してからにしよう。

 こうして、走り去る幼なじみに不名誉な捨て台詞を浴びることになるからな。


「あれ?長倉くんじゃん」

「あ、澤村さわむらさん」


 澤村さわむら明李あかりだ。黒髪ショートに校則違反の右耳にピアス。クールなイメージだったがひょんなことから話すようになった。


「そう言えば木梨先生に呼び出しされてなかった?」

「あ、それはもう行ってきたから大丈夫」


 そうだ、澤村に話してみるのはどうだろう。


「その、澤村さんて……」


 言いかけて思い出す。


「女バスだから放課後忙しいよね」

「え、ま、まぁ!こう見えて私、ベンチメンバーだし!そろそろインターハイもあるし。あ、良かったら今度の練習試合見に来てよ」


 まさかのお誘い。


「え、あ、いいの?俺なんか行って?迷惑じゃない?」

「全然!その、誘っておいてなんだけど。気付かないかも知れないから……」


 浮かれ気分が一瞬で我にかえる。


「あぁ、まあ!そうだよ。俺がいてもいなくても変わんないよな」

「あ、違うの。その、そっちに集中しちゃって……。コーチにも言われてるんだ、一回落ち着けーって」

「……ええ子や」


 フォローありがとう。そして、こんな心根の良い子を一瞬でもいけずだと思った俺は割腹しますね。


「え、ええっこ?」

「なんでもないです」


 衛生兵!このキモい発言し自己嫌悪に陥る俺の心の傷の手当てを!早く!割腹する前に!

 とりあえず今回、澤村をパーティーに加えるのは諦めた。

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