開花

@papann1212da

開花

首筋にバラが咲いていた。

私は元々病弱で肌が少し白いからそのバラがより際立って見えた。少し撫でてみる。確かに咲いているのに、それは全く感触もなければ感覚もない。それが少しおかしくて思わず声を出して笑ってしまう。

あなたにばれてしまったと恐怖がよぎる。けれどあなたたちはくだらないテレビ番組を見ていた。気づかれる心配はなさそうだ。それに安堵する。あなたたちが私に興味があるのは始めだけだった。少しお互いを理解したらそれからは私に興味をなくす。まるで私の全部を見透かしたように、もう私の底を、私の淵をあらゆる角度から見てあらゆる角度から触って感触を確かめたかのように。私が犯す行動の全てを把握しているかのように。それがまたおかしくて私はまた声を出して笑ってしまう。

今度はあなたたちにばれてしまった。

しまったという焦りと背徳感、背中から下半身にかけてじっとりと汗か体液かわからないものがでてくる。思わず私は悦に浸ってしまう。心臓の音が聞こえる。自分の吐息、鼻息、細胞の呼吸、自分という一つの物質がこの世界にあることをありありと感じてしまう。私は今生きているのだろう。私は私の原罪を受け入れてしまう。それは人でなしであるのと一緒なのだろう。

「なに笑ってんの?気持ち悪。」

あなたたちが答える。

「ごめんね。」

私は心の底から笑顔を見せる。それは愛情なのか、哀れみなのか、同情なのか、憎しみからかは自分でもわからない。その笑顔の正体を他所に同じミスを一日に二回もしてしまった自分への嫌悪感とあなたたちへの優越感がより私の現実を埋めてくれる。乾ききった心の中からオアシスができるような感覚を私の中だけに収めて輝きだけの指輪をつけた潤いの無い指で首筋のバラをなでる。私の気も知らないで、あなたたちは私に背中を見せて口にくわえた紙煙草に火をつける。白い煙がふわふわと天井まで登ってゆく。煙が天井をじっくり、じくっり、少しずつ、机の上のチョコレートみたいに痕跡を残していく。煙が私のそばまで来た。その煙の匂いを、肺一杯に入れながら私は朝と夜の記憶を思い出す。全身から蜜の様な幸福感がじっとりと全身を這いずって細胞一つ一つを喜ばせる。

赤く潤っていた唇が自然と上に上がった。

「愛してるあなた。」

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