少女Aについて
外街アリス
ep.1 side: Maki
第1話
神宮寺アリア。
彼女の事は、結局何ひとつ分からなかった。
私は彼女の為に、何をしてあげられたのだろうか。
何をしていれば、彼女をここに繋ぎ止める事が出来たのだろうか。
未だにその事ばかりを考えている。
今日は待ちに待った、母校への赴任日だ。
私を育ててくれたこの高校は、由緒ある女子校だ。
これからは、教師として生徒達を良妻賢母へと育てる事で、母校への恩返しをする。
そう思っていたのに。
「おはようございます。みなさん、入学おめでとうございます。ようこそ、ここ天神女子高等学院へ! 今日から三年間、みんなの担任を務める、百合ぞ……」
「ギャハハ、待って! 盛れなすぎなんだけどー!」
「ユミ目ぇ瞑っちゃった、もう一回撮ってー!」
「え! ミライちゃんもバレー部だったの!? サリもサリもー! インスタ交換しよー!」
この有様である。
おかしい。
ここは120年の歴史を誇る由緒正しき学校では無かったのか。
声の張りが足りなくて、聞こえなかっただけかもしれない。もう一度、挨拶してみよう。
「……おはようございます! みなさん、入学おめでとうございます! ようこそ、ここ天神女子高等学院へ……」
「ねえ今日この後何するー?」
「なんかこの辺、ケーキ屋あるらしいよ」
「マ!?」
「グルグルマップで見たー」
誰も私の話を聞いちゃいない。
何人か真面目そうな生徒がこちらを見てくれてはいるが、その他の大勢があまりにもうるさ過ぎる。
こうなればもう最終手段だ。
手元にある書類で教卓を思いきり叩く。
「……はい静かに!」
「……あ?」
「あ、先生いたんだ」
「ちっさ」
「見えなかったわー」
ものすごく舐められた発言が聞こえた気がするが、ここは大人として無視しなければ。
ようやく静かになったこのチャンスを逃さないうちに、自己紹介を始める。
「皆さん、入学おめでとうございます。今日から3年間、皆の担任をします、百合園ま……」
「はざーっす! ……あれ? もう皆来てた感じ? うーわ、初日から大遅刻! やらかした!」
数瞬、沈黙に包まれる。
途端に教室が笑いの渦に包まれる。
最悪だ。もう収集もつかないだろう。
突然教室に入ってきた少女は、悪びれもせず呑気な顔で自分の席を探している。
肩甲骨あたりで切り揃えられた黒髪に、ぱっつん前髪。
スカートの丈は校則通り。
この一件大人しそうな少女に、私は生涯に渡って翻弄される事になる。
これが、少女──神宮寺アリアとの出会いだった。
少女Aについて 外街アリス @Impimoimoko
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