背中の黒い人

 確か大学の時だったと思います。季節は夏じゃなくて秋だったかなあ、割と過ごしやすい季節のお天気のいい午後でした。


 その日私はちょっと風邪気味で部屋で寝ていました。そんなに高い熱が出たりはしてなかったんですが、自分の部屋でそんな午後にお布団の上で寝てたぐらいにはしんどかった、みたいな感じですか。


 横を向いて寝てて、外を通る子どもたちの声なんかも聞こえてたのは、小学生が学校から帰るぐらいの時間だったからだと思います。


 寝てはいなかったんですが、このままうとうとするかもぐらいの状態で、私にしては珍しく本も手にしてなかったので、やはりちょっとしんどかったんでしょうね。


 目をつぶり、外のセミの声やなんかを聞いていたら、いきなり、誰かが背中にぴったりとくっつきました!


(え、誰?)


 ビクッとして目を開けたんですが、自分の部屋でいきなり知らない誰かに背中にしがみつかれたら、とても動けるもんじゃありません。特に金縛りとかじゃなく、動こうと思えば動けたんですが、怖くて体中に力が入って動けないという感じです。

 このシリーズの最初の方に書いた小学校の頃の「背後にいるなにか」と同じく、かたまってしまったというのが近いでしょう。


 見えないのに、その人は真っ黒で、そして私より小さい、幼稚園ぐらいの子どもみたいな大きさだということが分かりました。すごく不思議なんですが、はっきりそういう人と言っていいのかどうかも分かりませんが、人の形をした何者かだということは分かりました。


 その後ろの人は私と同じように横向きに背中にぴったりくっついてるんです。そして同じように右を下に向けて寝てるので、そちらは敷布団の上のはずなのに、布団も畳も通り抜けたようにして、右側から手を伸ばしてその手に持ってる何か、なんだかセミか何かのようにジジジジジジと動いているように思えたそれを、ぐにゅ~んと文字通り「ゴムゴムの右手」みたいな感じで伸ばして、私の首筋か背中に入れようとしていると感じました。


 説明が難しいんですが、背中にくっついているのでその姿勢で私の背中に何か入れようと思ったけどむずかしくて、なんだかそんな変な形になってそのセミみたいな何かを入れようとしてるのだということが、なぜだか理解できました。普通に肩や肘、手首の関節を曲げるだけではとても入れられる形にはならない、それで右手が変な形に伸びてるような感じですね。


 その黒い人が怖いと思っていた時は動けなかったんですが、そんなことをしようとしていると理解した瞬間、


「何こいつ人の背中に虫入れようとしとんねん!!!!!」


 という怒りの気持ちがいきなり湧いてきて、実際に口には出せてなかったと思うんですが、全身で思いっきり、


「何してくれとんじゃあ!! もしもそんなもん背中に入れたら承知せんからなあ!! わ~れ~!!!!!」


 という感じで、まるでよしもと新喜劇の山田スミ子さんか未知やすえさんか室谷信雄さんのように怒りを露わにして、本気で、


「やられたらやりかえす!!!!!」


 の意思表示をしたら、いきなり、


「すっ」


 と、その黒い人は消えてしまいました。


 その途端、それまで緊張して全身強張らせてたのをホッとして力を抜いて、冷や汗のようなのをびっしょりかいてたのを覚えています。外のセミの声とかが一気に戻ってもきました。


 まだおひさまも高くて、そして多分寝てなかったと思うんですが、寝てないと思ってても寝てる時もありますから、


「夢でしょ」


 と言われたらそれまでなんですが、その黒い人よりセミっぽいのの方が怖くて怒鳴りつけたというところが、あまりにも自分らしくて、思い出すとちょっと笑えます。


 他にも妹が怖がってたそういうのを怒鳴りつけて追い出したこともあり、そちらの話は「深夜の病室に飛び込んできた何か」で書きました。結果的にはその相手がなにかは分からないものの、どちらも私がそういう何かを怒鳴りつけて撃退する話です。


 なんとなくですが、気合いの勝負かも知れませんね、そういうのとの対決も。




※これは私のエッセイ集「色んなことが、ふと、気になって、気づけばエッセイ千本目の前」にある「夏なので怖い話などを……」のリメイク掲載になります。


元の作品は以下になります。

よろしければ読み比べてみてください。


https://kakuyomu.jp/works/16816452220742104411/episodes/16817330661951692820


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