第2話
やっべ、こんなことしてる場合じゃなかった!
急がないと遅刻する!
「死神だかウサギだか知らないけど、もう行かないといけねぇんだ!じゃあな、ナメナ!」
そう言って、自称ウサギの死神であるナメナとやらを残したまま俺は家を飛び出した。
昨日スーツのままソファで寝落ちしてたおかげで何とか間に合ったぞ。
ブラック企業もたまには役に立つじゃん!バンザーイ!
普段なら睡魔と頭痛、時には胃痛にも苛まれてとにかく苦痛すぎる仕事だが、この日の俺はまるでゾーンに入ったかのようにサクサクこなせた。
朝からあまりにもぶっ飛んだ体験をしたせいか、眠気や疲れもどこかへ吹っ飛んでいってしまったようだ。
「おい…今日のあいつどうしたんだ」
「ついに頭おかしくなったか?」
周りがどよめきヒソヒソ話しているのが聞こえてきた。
会社ではすっかり『仕事ができない暗い奴』のレッテルを貼られ蔑まれてきた俺が水を得た魚とばかりに急に生き生きしだしたもんだから、上司や同僚たちはさぞ気色悪かったのだろう。
しかしそんなこと、今はもうどうでもいい。
こいつらなんて所詮俺と同じただの無力な人間だ。
今朝の死神みたいに心を読んだりイリュージョンみたいに出てきたり、まして魂を奪うなんてことはできやしない。
そう考えると、今までこんな奴らに怯えて自分を追い込んでいたことがバカらしくなった。
そしてこの日、俺は入社以来初めての定時退社をした。なんと素晴らしい記念すべき日だ。
俺の出で立ちや表情から確固たる意思を感じ取ったのか単にこいつやべぇと思われたのかは分からないが、誰一人として止める奴はいなかった。
「ただいまー」
…つってもさすがにもういないよな。
自分から死にたいって言っときながら、魂あげられなくて悪かったな。
でも、おかげでいろいろ吹っ切れたし、もし今度会ったらお礼言わないとな。
そう思いながら部屋の電気をつけた。
「あ、おかえりやなー!」
「――うわぁっ!!」
本気でビックリした…寿命縮むってこういう感覚だろうな…てか、なんでまだいるんだ?!
「ナメナ?なんか今朝と違って元気そうやな?一瞬別の人かと思ったな?」
ナメナがまじまじと俺の顔を眺めながら呟いた。死神にもそう見えるならやっぱり気のせいじゃなく実際そうなんだろうな。
「いや、その、なんていうか⋯ありがとな。それから、今朝死にたいって言って魂がどうたらっていうの⋯ちょっと先送りにしてもらえたら⋯」
自分でも不思議なくらい、今はもう死にたいと思わないし明日がくるのも怖くなくなっていた。でも、果たして死神相手にこんな言い訳通じるのか?
「あぁその話やったら別に焦らんでええな。ナメナしばらくここを拠点に活動しながら気長に待たせてもらうことにしたからな」
「そうか!あーよかった⋯これで一安し⋯」
……ん?
今こいつ何つった?
「とりあえずコンビニでポテチとコーラ買ってきてもらえるかな?」
こうして何がなんだか分からないまま、超ご都合主義なナメナとの同居生活が始まってしまったのだった。
お気楽ナメウサギの超ご都合主義生活 椎名うみ @shiina_umi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。お気楽ナメウサギの超ご都合主義生活の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます