休み時間

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休み時間


「昨日さぁ、」

クラスを抜けて吹き溜まり。


鞄の中には漫画や雑誌。

こっそりとおやつに持ってきたらしい魚肉ソーセージを銜えたまま、スマホを眺めてオーカがモゴモゴと言う。

「はぁ?」

「だから昨日さぁ」

「何?」

「昨日は昨日だけど?」

「昨日ってのは聞いたって!だから昨日が何だって聞いてんの」

「あぁ」

スマホを弄る手は止まらない。ソーセージも齧り続けている。


オーカはこういう女だった。

ぼんやりしている訳ではない。ただ人の事を今一つ考えているように感じられない。

いつだって自分のタイミングで喋り出すし、自分の思う様にしか話さない。なので一々内容が理解し辛い。

それでいて結構多弁だし、聞いてないと感じれば分かりにくく不機嫌になる。

「ゲームでさぁ、結構課金したんだけど、成果なしで」

「いくら入れたの?と言うかこの前もそんな話してた気がするんだけど、いい加減怒られるんじゃないの?」

「メチャクチャ怒られた」

「ほらぁ」

「でもさぁ、他に趣味ないじゃん?別によくない?」

「ダメじゃないだろうけど、限度はあるでしょ」

「エーちゃんだって雑誌とか買ってるじゃん」

「金額がちげーから。あと物理的に残るし」

「今時紙ってさぁ。重くないの?」

「は?」

「重くないの?」

「そうじゃないって。わざわざ雑誌持ってきてやってるのにそういう事言う?」

「スマホで見せてくれればいいじゃん」

「何で形態指定されなきゃいけない?」

「携帯って今更」

「ケイタイの意味がちがーう」


オーカのだらしなく伸びた足に赤い点がいくつかある。

出来物なのか怪我なのか、正直に言って綺麗じゃない。薬を塗って治すか、長めの靴下を履けばいいのにと思う。靴も変に煤けてるし踵は潰れている。


「クラスでさぁ、何?」

「は?何が?」

「えっと、誰だっけ?何か、顔がいいとかどうとかって」

「あぁ、×××さんの彼氏の話とか?」

「それそれ」

「彼氏のいる学校の男子がうちよりカッコイイんだって。で、今度皆で遊ぶとかそんな話」

「意味分かんない」

「意味分からんて」

「だってこの前連絡したのに返事ないとか騒いでたじゃん」

「確かに」

「泣いてなかった?」

「そこまでは知らんし」

「××××さんは彼氏の学校のジャージ貰ったって着てきたってさ」

「それも知らんけど」

「何かさぁ、何か」

「何だよ」

「キモい。キショキショムーブマジウッザ」

「それ絶対止めな。聞かれたら叩かれるよ」

「どうせ話しないよ」

「言って同じクラスなんだから」

ソーセージのゴミをビニール袋に突っ込んで口を縛る。

教室でオーカと喋れないのはこういう所があるせいだ。ただでさえ友達は少ないのに、いつ何をしてどうなるか分からない。

以前もうっかり余計な事を言って引く程険悪な空気になった。これを繰り返すせいで危うく虐められそうになった事もある。

幸いオーカも悪人ではないから許されたけれど、あれでお互いもっと酷い性格だったなら一体どうなっていた事か。

まるで爆弾みたいな女。

「この後どうする?」

「何?」

「まだ時間あるじゃん」

「別にこのままでも良いけど?」

「えー、飽きた」

「は?」

「だから飽きたって」

「違うって!じゃあもうゲームしてれば?」

「駄目、怒られるから」

「何なんだよ」

本当に面倒臭いな。腹が立ちそうになって、思わず口調が荒くなった。

「ヘヘッ」

「今度は何?」

「うん?」

「だから何ってば」

「エーちゃんさぁ、話聞いてくれるから好き」

ニタっと笑うオーカの顔はあまり可愛くなかった。


本当に、もう少し頑張ればいいのに。


そうしたら友達が増えたり、恋人が出来たり、そうじゃなくてもこんな場所でこんな風にしてるだけじゃなくて、どこかへ遊びに行ったりだとか、色んな事が出来るのに。

「ハイハイ。好きなのは良いけど聞いてくれないからって勝手な事すんの止めな」

まぁでも、言っても仕方がない。相手はオーカなのだから。

何より今が特別悪いという訳でもないのだし。



開いていた漫画を渡して、自分は雑誌を開く。


休み時間はあと僅か。

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