第7話 お宅訪問と段ボール
「お、おじゃまします」
「ど、どうぞ」
そして、俺たちは気まずさを覚えながらエレベーターに乗り、俺が住むマンションの一室に来ていた。
玄関で靴を脱ぐ詞を見ていると、女の子が自分の家に来たことを実感する。
……女の子のローファーがあるのって、新鮮だ。
俺がそんなことを考えていると、詞とぱちりと目が合う。
詞は慌てて目を逸らしてから、何かを思い出したようにニヤッと笑みを浮かべる。
「もしかして、きーくん緊張してるのかな?」
俺は図星を突かれてドキッとしながら、慌てて顔を取り繕う。
そうだった。詞はあくまで俺に男友達として接して欲しいんだったよな。
ここで詞に意識していることがバレたら、詞は俺から離れていってしまうかもしれない。
せっかく再会できたというのに、そんな別れ方は嫌だ。
俺はそう考えて、何でもない素振りで首を横に振る。
「いや、全く!」
「ぐ、ぐぬっ」
俺がそう言うと、詞は悔しそうに頬を膨らませる。
な、なんで悔しがるんだ?
俺がそんなことを考えていると、詞はふいっと俺から顔を逸らす。
「まぁ、そうだよね。男友達を家に上げて緊張するなんておかしいもんね!」
「ああ、全くその通りだ」
「ぐぬぬっ」
俺が詞を安心させるようにそう言うと、詞は再び小さく唸る。
これだけ言っておけば、詞も安心してくれるだろう。
俺はそんなことを考えながら、リビングの扉を開いた。
「え?」
すると、俺の後ろからそんな言葉が聞こえてきた。
俺が振り返ると、詞が驚いた顔で俺が開けたリビングを見つめていた。
「きーくん。もしかして、引っ越してきたの昨日とか?」
「いや、一週間前くらいかな」
「一週間前って……え、全然片付いてないじゃん」
詞に言われて、俺は再び顔をリビングの方に向ける。
そこには必要最低限の家具とノートパソコンやモニター、本棚などがあった。あとは、段ボールが何箱もあるだけで、特に散らかっている様子はない。
「足の踏み場はあるし……散らかってはないだろ?」
「そこじゃないよ。段ボール、そのままでいいの?」
詞はそう言うと、ジトっとした目で俺を見る。
俺は頬を掻きながら、ふいっと詞から目を逸らす。
「まぁ、必要な物はちょこちょこ取り出すし、問題ないかな」
「段ボールに何も書いてないけど、必要な物がどれかすぐに分かるの?」
「じ、時間をかければ」
俺は視線を逸らしても尚、詞にジトっとした視線を向けられている気がして、誤魔化すように笑う。
さっそく今朝学校に持っていくものが見つからず、遅刻ギリギリになったことは秘密だ。
すると、しばらくしてから、詞が小さくため息を漏らす。
「そういえば、きーくんの部屋って結構散らかってたよね?」
「え、詞が来るときはいちおう片づけとかした後だぞ」
「え、そうだったの?」
詞は目をぱちくりしてからそう言うと、ぐるっとリビングを見渡す。
それから、詞はおもむろに制服の袖をまくり上げる。
「多分、このままだと、きーくんずっと荷ほどきしないでしょ? 私が手伝うから、今日終わらせちゃおうよ」
「いやいや、さすがに悪いって。今日は普通にくつろいでくれよ」
「じゃあ、くつろぐために片づけさせてよ」
詞はそう言うと、少年のような無邪気な笑み浮かべる。
俺はその笑みを見て、俺はどこかで詞が女子だからと遠慮していたことに気づく。
……男友達が引っ越しを手伝ってくれるというのなら、それを断る必要もないか。
俺はそう考えて、詞に釣られるように笑う。
「そうか? そこまで言うなら、手伝ってもらおうかな」
「うん。任せてよ」
にっと笑う詞を見て、俺はなんとなく昔の二人の距離を思い出したような気がした。
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