第8話 進まない片づけ
こうして、俺は詞と共に、まだ荷ほどきをしていない段ボールの片付けをすることになった。
二人でやればすぐに終わるはず。そう思っていたのだが…… 。
「きーくん! これ『僕は友達が少なくて、青春ラブコメも間違っている』じゃん! ラノベ全巻持ってたんだ!」
そんなことはなく、中々片付けが進まずにいた。
初めはやる気満々で順調に片づけてくれていた詞だが、ラノベや漫画が入っている段ボールを見つけると、その場に女の子座りで座って本を読みだしてしまった。
片づけをしていると懐かしい本を見つけて、そのまま読み出してしまう。
すごく分かるぞ、その気持ち。
「あ、こっちには『青春男と幼馴染と彼女が修羅場過ぎる』がある!」
詞はそう言うと、すぐに段ボールに入っている他のラノベを見つけてキャッキャッと嬉しそうにしていた。
俺はそんな詞を見て、懐かしさを覚えながら笑みを浮かべる。
「読みたいなら貸そうか?」
「本当⁉ それなら借りていこうかなぁ」
詞はそう言うと、笑みを浮かべて俺を見る。
それから、何かを思い出したように小さな声を漏らした。
そして、少し俺から視線を逸らしてから、詞は微かに頬を赤らめて視線を俺に戻す。
「詞?」
「それならさ、ここで読んでいってもいいかな? 放課後にきーくんの家に寄らせてもらって、さ」
詞はそう言うと、余裕ありげな笑みを浮かべる。
「きーくんが私を意識しちゃうって言うなら、大人しく借りて家で読もうと思うんだけど、どうかな?」
詞は少しだけ遠慮がちにそう続けてから、上目遣いで俺を見る。
俺は詞のそんな言葉にどきっとしてから、橘の言っていた言葉を思い出す。
……正直、女の子が自分の家にいるというだけでも緊張する。
でも、詞は俺とは何でもない男友達の関係でいたいと思っているらしい。
それなら、ここでの答えは一つしかないだろ。
俺はそう考えて、サムズアップをしながらニッと笑う。
「全然ここで読んでくれて構わないぞ!」
「ぐぬっ」
俺がそう言うと、詞は悔しそうにそんな言葉を漏らす。
それから、俺は昔を思い出しながら言葉を続ける。
「それに、昔言ってたろ? アニメとか漫画とかをダラダラ見れる秘密基地みたいな場所があるといいねって。せっかくだから、ここをそんな場所にしないか?」
「きーくん、覚えていてくれたんだ……」
俺がそう言うと、詞は嬉しそうに微かに目を潤ませる。
俺はそんな詞を見て、少し恥ずかしくなりながら頬を掻く。
「当たり前だろ。男友達同士の約束だからな!」
「……ぐぬぬっ」
あ、あれ?
なんでまた悔しそうな顔をしているんだ?
俺が目をぱちくりとさせると、詞はぷいっと俺から視線を逸らす。
「そういうことなら、この部屋で読ませてもらおうかな!」
「ああ。思う存分使ってくれ。それに……ずっと一人って言うのも多少は寂しいからな」
俺はそう言いながら、俺たち以外に誰もいない家をぐるっと見渡す。
ずっと親元で生活をしていたせいか、自分以外の人の気配がしないというのは少し寂しく感じることもある。
初めの数日間はなんとも思わなかったんだが、不思議なものだな。
俺がそんなことを呟くと、詞はすくっと立ち上がって俺を見上げる。
「大丈夫だよ、きーくん」
詞は自身の胸に手を当てて、柔和な笑みを浮かべて俺をじっと見る。
「私が寂しくなんてさせないから。そんなこと考える暇もないくらい、ここに居座っちゃうからさ」
それから、詞は湿っぽくならない様にと思ったのか、ふふんっと得意げな笑みを浮かべる。
……そういえば、昔も両親の帰りが遅いときに、こんなことを言われた気がする。
俺はそんなことを考えて、詞に釣られるように笑う。
「ああ。そうしてくれると助かるよ」
「じゃあ、そのためにも、残りの段ボールを片付けちゃおうか」
詞はそう言うと、読んでいたラノベを本棚に並べていく。
俺はその後ろ姿を見て、少しだけ温かい気持ちになった。
これだけ美少女になっていても、性格は昔のままなんだな。
「あ、『変態王子と四畳半の侵略者』もあるんだ!」
……どうやら、本当に変わっていないらしい。
それから、俺たちはときどき昔のラノベを読んだりしながら、少しずつ段ボールを片付けていったのだった。
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