第6話 ご近所さん過ぎる距離

 俺は帰る方角が一緒だったので、途中まで詞と一緒に帰ることになった。


 しかし、何の偶然か二人して全く同じ場所で曲がり、気がつけば俺が住んでいるマンションの前まで来ていた。


「えっと、ここが俺の家なんだけど」


 俺はそう言うと、頬を掻いて詞を見る。


 すると、詞は驚くように目をぱちくりさせてから、俺に視線を向ける。


「うそ。私の家すぐそこだよ。ここから三分くらいのところ」


 詞はそう言うと、斜め後ろを指さす。


どうやら、詞が言っていたスーパーと古本屋、コンビニとはファミレスは俺が知っている場所だったらしい。


 ……こんな偶然あるんだな。


 俺はそんなことを考えながら、ふむと頷く。


「これなら、毎日一緒に登下校できるな」


「ま、毎日っ」


 俺が何気なくそう言うと、詞が肩をぴくんっと反応させる。


 ちらっと詞を見ると、詞は微かに頬を赤らめながら小さく咳ばらいをする。


 それから、余裕そうな笑みを浮かべてから、詞は俺を見上げる。


「へー、きーくんは私と毎日登下校したいんだ?」


「うん、そうだな。他愛もない会話をしながら登下校したら楽しそうだよな」


「へ?」


 そりゃ、登下校を共にできるような友人がいるなら、一緒に登下校したいだろ。


 俺がそう考えて言うと、詞は慌てて俺から視線を逸らす。


 それから、何かを誤魔化すように髪を耳にかけて、微かに下を向く。


「ふ、ふーん。そ、そうだね、楽しいかもしれないね」


「ああ。一人で学校に行くよりもそっちの方が楽しいだろ」


「そう、だね。うん、じゃあ、明日から私が迎えに行くから」


「おう。ありがとうな。なんかラブコメ主人公になった気分だな」


「っ!」


俺が何気なくそう言うと、詞は何を考えたのか目を見開く。


それから、唇をきゅっと閉じてから、目をぱちぱちっとした。


「ら、ららら、」


「え、なんで急に歌い出したんだ?」


「歌ってないから! ただ噛んだだけ!」


 詞は微かにむくれながらそう言うと、俺の住んでいるマンションを見上げる。


「ラブコメ主人公と言えばさ、高校生の一人暮らしってラブコメ主人公っぽいよね」


「まぁ、定番ではあるよな」


 俺はそんなことを言いながら、小さく笑う。


 確かに、なぜかラブコメの主人公っていないことが多いよな。


 海外出張だったり、ブラック企業勤めだったりして、ほとんど本編に登場しない。


 まぁ、そっちの方が話を描きやすかったりするんだろうな。


 俺はそんなことを考えながら、詞の表情を窺う。


「そういう発言をするってことは、詞はまだまだオタク現役って認識でいいんだな?」


「もちろん、オタクだよ。まさかとは思うけど、私をオタクに染めた張本人が脱オタしてるなんてことはないよね?」


 俺がそう言うと、詞は得意げな笑みを浮かべる。


 昔、俺が詞に色々とオタクコンテンツを教えると、詞は面白いくらいにアニメや漫画、ラノベにハマっていった。


 これだけ美少女になっているから、もしかしたらと思ったがどうやらそんな心配はいらないらしい。


 もしかしたら、俺と同じようにさらに深いオタクになっているかもしれないな。


 俺はそんなこと考えながら、詞に釣られるように笑う。


「当たり前だ。正直、親がいないという主人公的な状況に興奮さえしている」


「へぇ、なんかいいなぁ……」


 詞はそう言うと、羨むような目で俺の住んでいるマンションを見つめる。


 俺はそんな詞を眺めながら、ふむと考える。


「それなら、少し上がっていくか?」


「……え?」


 俺がそう言うと、詞は目をぱちくりとさせる。


 あれ? 話の流れ的におかしいこと言ってないよな?


 ん? いやいや、まてまて。


 これって、一人暮らしの男の部屋に女の子を誘ってるってことになるよな?


「ち、ちがっ! 他意はなくてだな!」


「他意? ……あっ」


 俺が慌てて訂正すると、詞は何かに気づいたように耳の先を赤くさせる。


 どうやら、俺は余計なことを言ってしまったらしい。

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