完結編
500年後のムーンヴァルキリーの筋はこうだった。
世界を滅ぼそうと企む、外宇宙からの悪意。
ダークカオス。
それが送り込んでくる混沌獣。
迎え撃つ6人の魔法少女ヴァルキリー。
……ここまでは俺のムーンヴァルキリーの基本設定と同じなんだ。
同じなんだけど……
話の筋は、ダークカオスとの戦いがメインでは無くて。
その陰の、日常。
主人公の水田アオは、その持ち前の正義感の強さと責任感の強さから。
クラスのヤリチン不良生徒に目をつけられて。
イジメに遭っているクラスメイトを救うために身体を差し出す羽目になり。
高校2年になるまで、大切に守り抜いて来たモノを散らされ。
その後、種付けおじさんや、イジメから救ったはずの男子生徒。
不良共の弟たちがクラスチェンジしたエロガキ……
複数の男たちの玩具にされ……
ラストは絶望の妊娠出産。
その様子を不良共にネットに流されて。
彼女は人格崩壊を起こし、最後幸せそうに微笑む……。
そんな、とんでもないストーリーになっていた。
言わば、俺の創った本当のストーリーは、ロメロの爺さんの映画「ゾンビ三部作」における、ゾンビ発生という現象。
台風や地震みたいな、舞台装置になってたんだな。
ゾンビ三部作を観たことがある人間なら知ってると思うけど、あの映画で出てくるゾンビは、主人公が殲滅するべき対象じゃ無いんだよ。
そういう災害扱いなんだ。
メインは、そんな災害に晒されて、巻き起こる人間模様。
そういう作品なんだな。
……俺のムーンヴァルキリーも、メインはダークカオスとの戦いじゃなく、その陰で行われていた水田アオに降りかかった性的暴行と、そこからの人格崩壊の悲劇を描く作品。
そんなもんになっていた。
どうしてここまで変わるんだ!
俺は憤ってしまったが。
……よくよく考えるとさ。
この時代では、俺はすでに大昔に死んだはずの漫画家で。
ムーンヴァルキリーは本来は最早古典漫画。
……言わば、西遊記や、桃太郎みたいなものになってるんじゃないのか?
思えばさ……
本来の桃太郎は、桃から生まれるんじゃなくて、桃を食って若返った老夫婦が、普通にセックスして妊娠し、産まれるんだよな。
俺の場合みたいなエロ魔改造じゃないけどさ、桃から生まれる設定にしたのだって、充分酷い原作改変だし。
西遊記も、いっぱいドラマが作られたけど。
その中で「孫悟空は岩猿ではなく、暴れ者が修行を重ねて仙術を習得。その過程で猿の妖怪になった」ってのがあった。
……原作者が死ぬと、残された作品は好き勝手に弄られてしまうものなのかもしれない。
それにさ。
むしろこの状態は、創作者としては喜ぶべきものなのかもしれない。
何故って……
俺が元の時代では、神作家と崇めていた大先生の作品が、誰も話題に挙げないようなマイナー作品扱いを受けているのに。
俺のムーンヴァルキリーは、俺の原作とは似ても似つかないけど、まがりなりにも水田アオを知って貰える状況で、残ってる。
これは喜ぶべきなのでは?
消えてしまうよりはマシだろ?
……腹が立ったけどさ。
なんだか、そういう気になった。
というか、そう思って気持ちを整理した。
そこで俺は、気持ちを切り替え。
ムーンヴァルキリーの続編を描き、個人投稿サイトに上げることにしたんだよ。
今度の敵は、人間の悪意から生まれた、7体の悪魔だ。
それは7つの大罪を象徴していて、毎回、その罪に対応した「道を踏み外した人間」を怪物に変える……!
読者に楽しんで貰えたら良いんだけど。
そして。
読者の反応は……
『アオちゃんはこんな有能に戦うキャラじゃないだろ。自分を守る決断が出来なくて、最後ドツボに嵌ってしまう、肝心なところが抜けてる子じゃん』
『キミがムーンヴァルキリー好きなのは分かるけどさぁ、R-18作品のキャラを流用して、全年齢の作品を描くってどうなんよ? 自分のキャラで勝負できないのは分かるけど、選び方ってものが……』
『内容も、特段目を引くものでもないし。フツー。道徳の教科書?』
『原作嫁』
……散々だった。
皆、ムーンヴァルキリーはR-18の成人作品だと思ってて。
俺のやったことは、言わば催●術2や相●遊戯のキャラクターで、スポ根もの漫画を描いたような。
意味不明の「読者を想定していない」クズ作品の扱いを受けてしまったんだよ……
悔しかった。
俺の方が正しいのに……
知られていないって、こんな辛いものなんだな……
あまりに辛いので、苦労して描いていたムーンヴァルキリーの続編だったけど。
サイトごと消そうと思った。
もはや俺が生み出したムーンヴァルキリーは、俺のものではなくなった。
そう、諦めながら。
……だけどそのとき。
メッセージが1通だけ、来ていた。
それを確認したとき。
一筋の光明が見えた気がした。
『作品拝読しました。原作のムーンヴァルキリーを良く分かってらっしゃいますね。原作の第8話の名シーンの台詞を回想し、立ち上がるシーンは震えましたよ』
……誰も見向きもしなくても。
見てくれる人って居るんだな……。
<了>
500年経っても…… XX @yamakawauminosuke
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます