窓際、隣の席の白井さん

ヘイ

第1話 手押し相撲

 

 窓際の席には美少女が座り、その隣になった男子と恋に落ちる……的なのが漫画とかだとよくある展開だ。

 

「ほら、これ見て。朝捕まえてきたんだよね、カブトムシ!」

 

 そして、俺の隣に座った少女もまた美少女。美少女なのだ。

 

 白井しらい美鶴みつる

 麦わら帽子と白ワンピが似合いそうな黒髪ロングの美少女。

 そいつが無邪気に虫籠に入ったカブトムシを自慢してくる。

 

「止めろ。それを俺に近づけるんじゃねぇ」

「えー、カッコよくない?」

「おい、何虫籠あけてんだ……?」

 

 コイツ、感性が小学生でストップしてる。

 だから遠慮なく虫が触れるんだ。かっこいいとか思えるんだ。

 

「で、何で腹の方見せてくんだよ!?」

「男子ってシックスパックとかに憧れるんじゃないの?」

「虫にシックスパック期待しとらんわ! てかグロいわ!」

 

 カッコいいのに、と唇を尖らせながらカブトムシを籠に戻した。

 

「なんか弱虫だよね、青野あおのくんって」

「お前ぶちのめすぞ」

「虫苦手って女の子みたーい」

「お前、女の子じゃないって自己申告してんのか」

「……は? 殺すよ?」

 

 無邪気な目ではなく、感情が見通せない目で言う。

 

「怖すぎるわ!」

「そうだね。理不尽すぎるね。これはカブトムシ相撲で決めるしかないね。ヨーヨーでも良いよ、何だったらコマでも」

 

 譲歩したつもりなのか、この女。

 というか。

 

「オイ待て、それに命かけろって言ってんのか?」

「そんなに嫌?」

 

 え、俺が間違ってんの。んな訳ないだろ。誰だって命賭けたくないに決まってる。

 

「嫌に決まってんだろ。せめて相手の言うこと何か一つ聞くとか……」

「絶対命令権か、面白い」

「テンションどこで上がってんだ。あと、それで『死刑』とかやんのナシだからな」

「…………私を何だと思ってんの?」

「おい、今の間は何だ」

 

 俺の問いに肩を竦めた。

 

「冗談だよ。じゃあ何で勝負する? カブトムシ相撲? 格ゲー? ヨーヨー?」

「お前、何自分有利の勝負に持ち込もうとしてやがる」

「勝負内容、そっちが決めたいの?」

「ああ。正々堂々力勝負と行こうぜ。ゲーセンにパンチングマシンあるだろ、アレで」

 

 俺の提案は「男子に勝てる訳ないじゃん。ふざけてんの」と却下される。

 

「間をとって手押し相撲にしとこ?」

「良いのかよ?」

「何が?」

「いや、俺男子なんだけど?」

「あ、ごめ……女の子と手が触れるだけで失血死するんだっけ?」

「クソが! 俺の思いやりを返して欲しい」

 

 他の男子とか、女子とかから何を言われるかとか心配して言ってやったのに。

 

「青野くん、そんな気遣いするほど手押し相撲強いのかよ〜?」

「手押し相撲の強い弱いを気にしたことはないが、良いだろう。テメェに男女の筋肉差を思い知らせてやる。そこに立て!」

 

 ここまで煽られては仕方あるまい。

 

「ほっ、ほっ、ほっ!」

「ははっ、甘い甘い!」

「ふ、バカなの? 手押し相撲、攻めなきゃ勝てないよ?」

 

 それは、まあ、その通りかもしれない。

 コイツは体重を乗せた攻撃を仕掛けて来ない。全部ジャブの様な物。

 

「オラァ!」

「よっ、と」

「あ、テメっ………バカ!」

 

 俺は体重を乗せた攻撃を白井の両手に向けて仕掛けた。ただ、その両手が無くなれば手のひらが向かう先は。

 

「……変態」

 

 胸だ。

 いや、その。

 

「これは不可抗力だ」

 

 俺はサッと手を引く。

 サッと目を逸らす。

 

「ほう。最初に出てくるのがその言葉か」

 

 何かキレてる、のか。

 いや、顔は天使のような微笑みを作ってる。

 

「……お前もちゃんと女の子なんだな」

 

 制服の上からでは胸は慎ましやか。

 大和撫子な胸と言うヤツだ。

 

「ふむ、それで?」

「あー、やっぱブラしてんだなって」

 

 手に残る感触は柔らかな胸の感触と言った感じではなく、ブラの感触の様な。

 

「死ね!」

 

 俺の股間に右脚が振り上げられた。

 

「おっ、おぅっ、おっおっ……!?」

「先に動いたのは私だから私の負けでいい。ぺぇタッチはこれで許してあげましょう」

 

 白井は顔を仄かに赤くしている様に、蹲る俺の目には見えた。

 

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