天上天下唯我独尊

「てーんじょうてーんげゆいがどくそーん♪ おーぐ! たたーがた♪ たたーがた♪」


 ユキちゃんが黒い猫耳ヘッドホンをつけて謎の歌を歌っている。由緒正しきサブカル女子のユキちゃんなので、曲に合わせて海月頭をヘドバンしてても気にしないことにする。

 

降魔成道ごうまじょうどう♪ 天魔マーラはらえ♪」


 それにしてもクセ強すぎない? その歌。


「とおとき方よぉ♪ ダルマをならせ♪」

「ユキちゃん……。その歌なに? 変な宗教にハマってないよね?」

 

 僕はとうとう耐えられなくなって口を開いた。ゲームをしていても気になって集中できない。ユキちゃんは照れたように振り返り、ベッドにうつ伏せになっていた僕の傍にごろんと横たわる。


「えへへ。従姉妹のお姉さんが好きなバンドの曲だよ。前に遊びに行った時に聞かせてもらって気に入っちゃった」

「へえ。ユキちゃん従姉妹がいたんだ」

「ミスズちゃんて言うんだけどね。親戚の中では一番年が近いし、趣味も似てるかも。昔ピンクの頭してたって言ってた」

「そうなんだ。それどんなバンド?」

「うーん……、もう解散しちゃってライブも見たことないけど、メンバーは全員お坊さんで、ファンは檀家って呼ばれてたらしいよ。あと、お布施したり合掌したり行脚したりするんだって」

「やっぱりやばくない? そのバンド」

「そんなことないよ、ほら。キヨくんも聞いてみて」

 

 猫耳ヘッドホンを渡され、恐る恐る耳を近づけてみると、鼓膜が破れそうなデスボイスが聞こえてきた。


「無理無理無理無理」


 僕はあまり音楽を聴かないし、特にメタル系は抵抗がある。坊さんとメタルってどういう組み合わせだよ。人の趣味に口出すのは良くないと思うけど。


「バチが当たりそう……」

「そんなことないってば。ミスズちゃん、イケメンでイケボの旦那様と結婚して今は幸せそうだよ~」

「ご利益あったんだね」


 僕はそれだけ言うのがやっとだった。少なくとも音楽の趣味はユキちゃんと合いそうにない。

 ユキちゃんは唇を尖らせて僕の脇腹に猫パンチをしていたけど、無視していたら飽きたのか、またヘッドホンをつけて音楽を聴き始めた。

 最初は大人しく揺れてるだけだったユキちゃんは、そのうち乗ってきてまた声を出して歌い出す。


「五体投地で拝み倒しなぁぁぁ! なぁむなぁむなぁああ無!」

「ちょ、歌うのやめてくれる!?」


 今度は合掌までしてるよ? 合唱じゃなくて合掌だよ? ほんとね、ユキちゃんとは音楽の趣味は合わないと思う。




(ユキちゃんの好きな音楽の系統を考えていたら、ミスズちゃんに似てるだろうなと思った次第)

「ドット虚無コム♪来迎!」短編

https://kakuyomu.jp/works/16817330650264524775

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