些細だけど些細じゃないこと
後になったら思い出せないような些細なことで喧嘩をした。いただきますを言わなかったとか、脱いだ服をそのままにしていたとか、意外とユキちゃんはきっちりしてるので、だらしない僕はたまに怒られる。
ゲームをしていて話を聞いてないのはしょっちゅうだし、最近はユキちゃんも呆れてしまったのか何も言わなくなったけど。
今日はいつもなら流すところを言い争いになって、ユキちゃんはぷりぷり怒りながらカバンを掴んで出て行ってしまった。僕も少しの間はムカついてたけど、頭が冷えるにつれて、じわじわと後悔が押し寄せてきた。
あんなに強く言い返すことなかったな。ユキちゃん、無事家に帰れただろうか。メッセージを入れてみる? 電話する? いやでもユキちゃんちはここから近いし、そんなに心配することもないか。ああ、でもやっぱちゃんと謝らないとな。
ベッドの上で丸くなって、ぐだぐだ考えていたけれど。ふと我に返ったら、ユキちゃんのいない部屋はガランとしていて、やけに広く感じられる。別に一人でいることだってあるのに。
僕はあまり深く考えることもしないし、感情を波立たせることも少ない。ユキちゃんの気分の浮き沈みの激しさにヘキエキすることだってある。
歌ったり踊ったり、忙しなくお喋りしたり。どうでもいいことに拗ねたり怒ったり。子供みたいに大きな口を開けて笑ったり、意外と寝相が悪かったり。二人で下らない話をして、一緒に遊んで、ご飯を食べて、一緒に眠る。
いつの間にかユキちゃんがいる風景が当たり前になっていて、彼女に会う以前の自分が何をしていたのか思い出せなくなってしまった。
やっぱり謝りに行こう。僕はようやく体を起こして、ベッドから降りようとした。すると、玄関が開いてユキちゃんが歌いながら入ってきた。
「ただいま。アイス買って来たの。キャンペーンやってて、二個買ってクジ引いたらもう二個当たっちゃった! 一緒に食べよ」
「……」
拍子抜けするほどあっさりした態度のユキちゃんに、なんと言っていいか分からなくて、ベッドに座ったまま彼女の腰を抱き寄せた。薄いお腹に顔を埋め、ぐりぐりとおでこを押し付ける。ユキちゃんはくすぐったそうに笑ってされるがままになっている。
「なあに、寂しくなっちゃった?」
「……うん」
「アイス溶けちゃうよ」
「ごめん」
ユキちゃんの顔を見たら安心してしまった。いつもありがとうとかさっきはいいすぎたとかいなくならないでねとか、いろんな言葉が頭の中を渦巻いて、結局僕の口から出たのは小さな謝罪の一言だけだった。
顔を埋めていたから、ユキちゃんの表情も声も分からなかったけれど、僕の頭を抱き締める腕に少しだけ力がこもるのは分かった。
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