独り占め
大学の構内の自販機でコーヒーを買っていたら、少し離れたところにユキちゃんを見かけた。小柄だけど、いつも赤と黒の服を着ているからすぐに分かる。
今日はメンズライクな黒のオーバーサイズのパーカーを着て、赤いミニスカートと黒の厚底ブーツ。あんなに底が厚い靴を履いて、よく転ばないなといつも感心してしまう。
友達と話しているようなので、こちらから声をかけることもせず様子を見ていた。僕と一緒にいない時のユキちゃんが外でどんな風に振舞っているのか、ちょっとした興味もあった。
主に友達が話しているようで、ユキちゃんは時々頷いたり首を傾げたり、リアクションは少なめだ。ぼけっと見ていたら、そこにもう一人、男子が来て会話に加わった。
遠目に見ても背が高くてお洒落な感じだ。服の系統もユキちゃんに似ていて、二人で並んでいるとファッション誌の一ページのようにも見える。
それになんだかやけにユキちゃんと距離が近い。なんだあいつ。でもユキちゃんはめんどくさそうな表情で、そいつから少し離れて追い払うような仕草で手を振っている。
無表情で不愛想。リアクションも少なめ。僕の前では感情豊かにくるくると表情をよく変えるユキちゃんとはまるで真逆な女の子がそこにいる。ふーん。友達の前ではあんな感じなんだ。バイト先でも最初から元気で愛想が良かったから、ずっとそういう子なんだと思っていた。
僕は缶コーヒーに口をつけて、そのまま行ってしまおうかどうしようかと少しだけ迷う。ユキちゃんにだって付き合いがあるだろうし、邪魔するのは良くないよな。と、思ったら、あの男子がユキちゃんの頭に触ろうとしているのが見えた。
「ユキちゃん!」
思わず出てしまった大声に、ユキちゃんが振り返る。僕を見た途端、パッと顔を輝かせて、こっちに走ってくる。おお、お、あんな靴でよく走れるな。ハラハラして両手が前に出てしまった。その腕の中にユキちゃんがすっぽり収まってギュウと抱きついてくる。
「キヨくんだあ」
片手に持ったままの缶コーヒーが零れないように、少し腕を上げてその顔を覗き込む。さっきまでの塩対応、不愛想、無表情はなんだったんだ、というくらいのニコニコ笑顔。
「いつも一緒だけど、外で偶然会うの嬉しいね」
「うん」
僕の胸にすりすりと頭を寄せてくるユキちゃんの髪を撫でる。いつも二人で使っているシャンプーの匂い。なんとなく男子からの視線が痛いような気がするけど、知らないふりをしておいた。隠すように腕に囲ってコーヒーを一口飲む。
ふふん。ユキちゃんのこの顔を見ることができるのは、僕だけでいいんだよ。
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