魔法使い

 友達には「表情筋が死んでる」とか「リアクションが薄い」と言われる。自分でも分かっているから、少しはなんとかしようとしたけど、今のところどうにもなってない。

 でもなぜかユキちゃんは僕の感情の変化によく気付く。思い返せば出会った頃からそうだった。嫌なことがあって落ち込んでいる時も、嬉しい時も怒っている時もすぐに気づかれてしまう。

 超能力でも使えるんだろうか。ユキちゃんの部屋には怪しげなまじないグッズなんかもあったから、もしかしたら魔法が使えるのかもしれない。いや、そんな訳ないよね。

 夕方、スーパーで買い物をして僕の家に帰る途中に、ユキちゃんにそれを言ったら、彼女はニヤニヤして僕を見上げた。 


「キヨくんは分かりやすいよ」

「そんなこと言うのユキちゃんくらいだよ」

「お腹空いてる時はもっと無口になるし、嬉しい時はちょっと首を傾ける。あと、イライラしてると瞬きが多くなる。楽しい時は足を片方動かす癖があるの」

「そうなんだ」


 僕は内心舌を巻く。買い物袋を持っていない方の手でなんとなく耳を弄っていると、ユキちゃんはまたニンマリした。


「ちなみに今はちょっと動揺してるでしょ」

「なんでわかるの」

「耳たぶをいじってるから」

「すげえ」

「ふふふ。言語は言葉だけではないのじゃよ。キヨソンくん」

「だれ?」


 キヨ+ワトソンてことだよね? でも口調がアニメの博士みたいだし、ホームズとごっちゃになってるね。

 たしかに非言語ノンバーバルコミュニケーションについては聞いたことがある。「目は心の窓」って言うように、人間は表情、顔色、視線、仕草、姿勢など、言葉以外の方法で相手の感情を読み取ったりする。コミュニケーションにおける言葉は案外割合が少ない。

 僕はそういうのに疎いから、他の人もユキちゃんくらい分かりやすく感情を見せてくれればいいのにな、とは思う。


「私がキヨくんに告白する前から、私のこと好きなんだって気付いてたよ」

「え、うそ」


 そんな素振りをした覚えはないんだけど。


「キヨくんは好きなものをじっと見る癖がある。あと、距離が近くなる」

「ああ……」


 そう考えると、近距離で凝視する僕ってけっこうヤバいのでは……? え、ちょっと待って、なんか恥ずかしくなってきた。


「うふふ。今は照れてるでしょ?」

「分かってるなら聞かないで」


 ぷいと、そっぽを向く僕の腕に自分の腕を絡ませたユキちゃんは、「そういうとこ」と、小さな声で言って笑った。

 ほんとなんでもお見通しだ。ユキちゃんは僕限定の魔女ってことか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る