パン屋のジョージ

 ユキちゃんはあまりゲームをしないけれど、一度ハマるとずっとそれをやり続けることがある。まだ付き合う前の頃、僕がやっていたソシャゲに興味を示したので教えてあげたら、気に入ってくれてずっとプレイし続けているようだ。

「キヨくんと共通の話題が欲しくて」と、ちょっぴり照れながら言われた時は、密かに悶えた。


「ジョージの孫が大きくなった」

「ジョージって誰?」

「キヨくんが前に教えてくれたパズルゲームのキャラクター」

「あれ、まだやってたの? 孫できたの?」


 パン屋を営むジョージは、土地を開拓し小麦を育てるところからやってる拘り派だ。ゲームだけど。パズルとクエストをこなしながら、自分の店を持ち事業を拡大していく、みたいな内容だったと思う。

 オススメは? って聞かれて、色んな可愛いキャラクターも出てくるし、細部にこだわりそうなユキちゃんに向いてるかと思って教えたけど、まさかまだやってるとは思わなかった。


「ジョージの孫のミランダ、小学校でお友達が三人できたの。従姉妹のルーシーはすごく意地悪で、ボーイフレンドのマイケルを取り合って喧嘩したりしてる」

「待って待って、情報が多い。いつのまにそんなにキャラ増えたの」


 僕が知ってるゲームのストーリーとはかなり違っている。ジョージはどうなった?


「ジョージはね、パン屋を引退して南の島でオウムのポール船長と悠々自適に暮らしてる」

「へえ……」

「時々、息子のリチャードとミランダが遊びに来て、魔女や宇宙人やなんかも来るの」

「もう何がなんだか」

「最近はミランダの恋の行方が気になる。応援しちゃう」

「そうなんだ」


 もはや親戚のお姉さんのような口ぶり。ユキちゃんは携帯の画面を熱心に見つめながら、少し興奮した様子で、ミランダやジョージの話を続けている。ここまでハマってもらえるなら、紹介した甲斐があったのかな。

 そういえばユキちゃんは、物に対する愛着も強くて、赤ちゃんの頃に貰った人形や、小学生の頃に使っていた巾着などをずっと大事にしている。


「最近ジョージはオネエ言葉を使うんだけど、何かに目覚めたのかしら」

「バグじゃないの?」

「いや、きっとオウムのポール船長がブードゥーで何かしたんだわ」

「どうなってんのそれ。育成パズルゲームのはずだけど?」

「3597ステージまでいけば、なんでもありよ」


 ま、まあ、そこまでステージが進めば、ネタ切れになってなんでもありにはなりそうだ。3597ってどんだけやってるの。

 いずれにしても、好きな物をずっと大事にし続けるユキちゃんには尊敬すら覚える。


 ……この調子で僕も末永く大事にしてもらえるだろうか、なんて思ってみたり。

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