夏です!海をテーマにした三分で読める短編

代々木夜々一

あらたな鳥

 むかしむかし。


 まだこの世が、それほどさだまっていないときのこと。


 あらたな鳥が、この世に生まれました。


 あらたな鳥は、それまでの鳥とは、まったくちがう鳥です。


 だから名前も色も持っていませんでした。


「ぼくも色がほしいな」


 あらたな鳥は思いました。


 そこで鳥の仲間をさがそうと、山へ入り、森の深くをさまよいました。


 すると木の上に、きれいな声でさえずる鳥を見つけました。


「やあ、きみはなんてきれいな緑色をしているんだい。ぼくにもその色をわけてくれないか」


 すると木の上の鳥は、あらたな鳥を見おろし言いました。


「ホケキョケキョ、おまえになんか、やるもんかい」


 そう言って緑の鳥は飛んでいきました。


 あらたな鳥はがっかりして、次に林のおくへと進みました。


 すると、しげみのなかから大きな鳥があらわれました。


 大きな鳥は、目のまわりが赤く、からだも青や緑ときらびやかな色をしています。


「きみは、なんてきれいなんだ。ぼくにもその色くれないかい。赤でも青でも緑でもいいんだ」


 色のないあらたな鳥はそうたずねましたが、大きくて派手な鳥は羽を広げて走ってきます。


「ケーンケン、色のない鳥なんて気持ち悪いやつめ。あっちへいけ。つっついてやるぞ!」


 あわてて、あらたな鳥は逃げだしました。


 そのあとにまっくろな鳥にもあいましたが、まっくろな鳥は「カアカア」と鳴くだけで取りあってもくれませんでした。


 色のないあらたな鳥は、だれからも色をもらえません。


 ふと空を見あげると、まっ白でもくもくとした巨大なものが浮かんでいます。


「なんてきれいな白なんだ!」


 あらたな鳥は、空にむかって飛び立ちました。


 飛んでいけば、すぐだ。そう思っていたのに、どこまで飛んでも近づいてきません。


 羽ばたきつづけたあらたな鳥は、だんだんと羽が痛くなってきました。それに空高くなればなるほど日ざしは強く、じりじりと焼けるような熱さも感じます。


 それでも、あらたな鳥は飛ぶのをやめませんでした。どうしても色が欲しかったからです。


 羽ばたいて、羽ばたいて。ときに風にあおられ。それでもあらたな鳥は飛びつづけます。


 やっとのことで、巨大なまっ白いものの下へと着きました。


「やあ。きみの白い色をくれないかい。そのまっ白さがほしいんだ!」


 すると、もくもくとした巨大なものは答えました。


「わたしは生まれたときから、この色なの。あげられないわ」

「どこで生まれたの」

「さあ。わたしは風に流されるだけ。風をたどってみたらどうかしら」


 あらたな鳥は考えました。このもくもくとした巨大なものが生まれた場所。そこにいって仲間になれば、まっ白な色をもらえるかもしれない。


「ありがとう、いってみるよ!」


 あらたな鳥は、風にむかって羽ばたき始めました。


 風がふいてくる方向へ、えんえんと羽ばたきつづけました。


 どれほど飛んだことでしょう。気づけば上も下も、まっ青な世界になっています。


「ここはどこなんだろう。どっちが上なんだろう」


 飛びつづけたあらたな鳥は、つかれはて、視界がぼやけてきます。


 気づけばあらたな鳥は、まっ暗な闇のなかにいました。


「おまえは、海を飛んでどこにむかおうというのか」


 地響きのような声が、どこからともなく聞こえてきました。


「ぼくは色をもらいにきたんです。けがれのないまっ白な色です。風のさきで生まれたと」

「雲のことか。あれはわしが生んだもの」

「あなたが。では、ぼくも仲間に入れてください。そしてあのまっ白な色をください」


 すこしのあいだ待っていると、地響きのような声は答えました。


「よかろう。わしの世界に魚どもはおるが、鳥はおらぬ。おまえがわしの世界に住むと誓うなら、おまえにまっ白な色をさずけよう」


 こうしてあらたな鳥は、雲のようにまっ白な色を海からもらいました。


 いまでは「カモメ」と呼ばれる鳥のはじまりです。


 カモメはいまでも誓いを守り、山や林の上でその姿を見かけることはありません。




 終



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夏です!海をテーマにした三分で読める短編 代々木夜々一 @yoyoichi

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