第2話 頼みの章
空気がひんやりと感じられる、夕刻。
あきとりんは、都の外れにある集落で、宛がわれた掘っ立て小屋に身を落ち着けていた。
華やかなりし都、「
雨風をしのぐのが精一杯の粗末な小屋は、それでも貧しい集落の住人が空き家を精一杯掃き清め、旅の薬売りの為にと用立ててくれたものだった。
床に広げていた道具を柳行李に仕舞うりんの背を、膝を抱えたあきが、被った筵の隙間から眺めている。
「随分と賑わってたね。もっとふんだくっても良かったんじゃないの?」
「いえ、これで十分でございます」
「まあ確かに、そんな銭を持ってる奴なんて居ないんだろうけどさあ」
貧しく清潔と言えない集落に、身体を診てくれる者の訪れなど滅多にない。不調を抱えた身体を騙し騙し生活している者達に、薬売りの来訪は殊の外喜ばれた。体力に余裕のある若者など、礼代わりにと、
纏め終えた荷を脇に寄せたりんが、あきに身を向けた。
「ところで、わたくしはこちらで数日お世話になる心算でございますが、あき様はそれでよろしゅうございますか?」
「あたしはりんさんに雇って貰ってる身だもの、好きにしてくれて構わないよ」
あっさりと返された答えに、りんが細い目を更に細める。
「お聞きしてもよろしゅうございますか?」
「なに?」
「何故、あき様はわたくしに声を掛けられたのでしょう。
「なんでそう思うの?」
片頬で笑うあきに、
「初めてお会いした時に、『都に行くんだろう』と仰ってましたので。わたくしの行く先をご存じだったように感じました。それに、『兄さんで間違いない』とも。もしや、わたくし達は何処かでお会いしたことがございましたでしょうか」
りんの、責めるとも
「考え過ぎよ。あれは、良い雇い主を引き当てた自分の見る目の確かさを褒めただけ。りんさんの事を知ってた訳じゃないって。それに、都は色々と物騒だって噂だ」
沈黙。
暫くして、観念したあきが口を開いた。
「……確かに用事はあるけど、今すぐじゃない。りんさんと会ったことが無いってのも本当だよ。でもね、りんさんと一緒にいることで、あたしの用事を済ませることが出来るの」
りんが口を開くより早く、あきは筵を跳ねのけ、床に両手を着いて深々と頭を下げる。
「黙ってて悪かったよ。今はこれ以上話せないけど、きちんと用心棒の仕事はするし、決してりんさんに難が及んだりしないって誓う。もし、身体を……差し出せってなら、好きにして。だから、もう何日かあたしと一緒に居て欲しい。頼みます」
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