路上編

なんか車体こそげたわ

 母上に免許を取ったと報告したら、「そう、じゃあ車買ったげるわ」と珍しく激甘なことをおっしゃいました。

 もちろん鳥尾巻の技量を正しく判断した上で、走れば御の字の安いマニュアル車です。余計なオプションはついておらず、エンジンのついた動く箱、といった感じのオンボロ車でした。

 免許取得から数日も経たないうちに「5万で買って来た。保険は入ってるから」と、納車されてきました。


やっす!


 まあ、私もそこに拘る人間ではありませんから、ありがたくいただきました。

 早速、仕事場にも乗って行き、帰り道も滞りなかったので、そこで調子に乗りました。

 次の日、当時小学生だった弟をドライブに誘います。

「お姉ちゃんとドライブ行こうよ~。どこでも連れてってあげるから~」

「うん」

 当時は姉に絶大なる信頼を寄せていた素直な弟、二つ返事で頷きます。そこが彼の悲劇の始まりでした。


 その時住んでいた実家の前は、車一台がギリギリ通れるくらいの狭小な道路でした。行きは駐車場から慎重にゆっくり出て、幸先の良い滑り出しでした。駐車場で苦労しながらも、弟の行きたい場所へも行くことができました。

「お姉ちゃんすごいね」の言葉でどこまでも調子に乗ります。

 帰り道、あと少しで自宅に到着する場所で、細い道の両側に立っていた電灯と電柱の間を通り抜ける際に、ハンドル操作と幅を誤り、左側の電灯に車体をこすりつけました。


「ねえ、なんか音してない?」と、弟。

「大丈夫じゃね?」

「いや、してるしてる! 大丈夫じゃないよおおお!!」


 車内には金属と金属のこすれ合う音がギリギリと響きます。助手席側の弟にしてみたら、生きたままプレス機にかけられる心境だったことでしょう。

 いかん。バックしよ。とバックしたのはいいけど、次に前進したら、今度は右側の電柱に突っ込みます。角に建つ家の生け垣を軽くなぎ倒し、またバック。

 どうにかこうにか細い路地に入って、数メートル先の実家の駐車場に辿り着いた時には、車は前も左もぐしゃぐしゃになっていました。


 車は納車二日目で廃車になりました。「どうやったらこんなになるのよ!」と、母上にはめっちゃ怒られ、角の家の生け垣を破壊したお詫びに菓子折りを持って行きました。家主のおじいちゃんは「木は大丈夫だから。今度は気をつけてな」と言ってくれました。

 電灯は曲がっておりませんでしたが、車体をこすりつけた跡は今でも残っているでしょう。

 弟はそれから私の車に乗ってくれることはありませんでした。


(ノД`)シクシク


 同乗者を危険にさらしてはいけません。

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