第14話 私のやりたい冒険は、普通より難しそうだ
子供の頃、秘密基地が欲しいと思った事がある人はいないだろうか?
ツリーハウスとか、洞窟とか、掘っ立て小屋とか、大きな土管とか。
そういう一人だけの拠点が欲しくて、何とか秘密基地を作りたくて……、でも大抵は、実際に作るところまでは辿り着けずに終わってしまうのだ。
子供が自由に使っていい土地を持っている日本人って、そんなにいないと思う。いても、その子供が基地を作れるだけの素材を集め、実際に基地を作る作業を行えるかどうかはまた別だし。
だから日本で幼い頃、秘密基地が欲しいと思っていた人はそれなりにいるかもしれないけど、実際にそれを成し遂げた人はとても少ないと思う。
そうして様々な事情で、実際には秘密基地など作れない人の方が多くても、心の中に憧れはあったのではないだろうか。
かく言う私もそうだった。そして私の場合は特に、人よりもその憧れが強かった。
多分、両親の不仲が原因で子供の頃から家での居心地が悪かったから、家に居場所がないと感じていたのも、原因の一つだと思う。それに中学、高校、大学(これは途中までで異世界に落ちたが)と、ずっと寮に入っていたから、自分の為の住処というものに、余計に憧れが募ったのかもしれない。
私が欲しいと思い描いた秘密基地は、森の中を自由に開拓して、家も畑も牧場もあるような、秘密基地というよりは、家とか拠点とか言うようなものだ。
きっかけは、立方体のブロックを積み上げたりして遊ぶゲームだ。あのゲームで私は、森スタートで木を潤沢に使った拠点を作るのが一番好きだった。
砂漠や草原スタートより、開拓のし甲斐のある森が好きだった。そして石の家やレンガの家より、木の家が好きだった。
私はあのゲームにおいて、モンスターを倒す部分を冒険と捉え、設備の整った家を初期地点や自分の作りたい箇所に拠点として作っていくのを楽しんでいた。時に遠出する事があっても、いつでも帰れる自分の家。居心地の良い居場所。それを自分の手で一から作り上げるのが楽しかった。
あのゲームをプレイしていた時の楽しさと、子供の頃からある秘密基地への強い憧れと、アウトドアが好きで専門のクラブに入った経験などが合わさって、私にとっての「私がやりたい冒険」とは、モンスターを倒しながら森で拠点を開拓する事であり。
つまり。私がこの先、冒険者養成学校を卒業してからやりたい冒険とは、森の開拓と森の中の拠点がセットなのである。
……私だって流石に、それが普通の人にとっての、普通の冒険観でない事は、ちゃんとわかっている。
一般的な冒険観は、多分街から街への旅暮らしとか、秘境を探索するようなものなのだろう。
更に、私のやりたい事が、現実的に見てかなり困難だという事もわかっている。開拓するのに、わざわざ木を切って根を抜いて土地を整地する必要のある森なんて向いていないのではないかとか。
モンスターの蔓延るこの世界では、人々が暮らす場所は石造りの高く分厚い壁の内側に限られている。この世界で拠点を作ろうと思ったら、周りを覆う壁もセットで作らねばならない。しかも度重なるモンスターの襲撃を退けながら、それらの作業をしなければならないのだ。
一応森には建築材の原料が豊富にあるとか、食肉に適用出来るモンスターが多いとか、利点もそれなりにあるけれど、多分それ以上に困難の方が山積みだと思う。
地球での重機の代わりに、こちらには魔法や身体強化、魔導具といった便利なものはあるけれど。それでも現代の地球に比べれば、開拓は大変なものとなるだろう。何と言ってもモンスターの脅威があるのだから。
(でも、大変だからやらない、できないなんて、認めなくない)
そもそも、ただ楽に快適に生きたいだけならば、わざわざ危険で不便の多い冒険者なんて、最初から選ばない。
私は自分のやりたい事をやる為に、この職業を選んだのだ。難しいからという理由で、自分の夢を諦めたくない。
……けれど、それに他人を付き合わせるとすれば、話は別だろう。
学校を卒業してからパーティを組むなら、そのメンバーを自分のやりたい事に付き合わせるという事になるのだから。
まあ、数年を普通の冒険に費やし、その間に資金を蓄え実力を備えて、その後自分のやりたい事に邁進するというやり方もあるとは思う。
ただ、理想の泉のおかげで多少は寿命が延びるとはいえ、人の一生の時間など限られている。やりたい事を後回しにして夢を叶えられずに死んだり、開拓の為の時間が足りなくなったりしたら、悔やんでも悔やみきれない。
そう考えていくと、やはり班のメンバーには先に自分の希望を告げて、賛同して貰えるようなら卒業後もパーティとして活動。そうでなければ、卒業後はソロで活動する事を前提にした方がいいのではないだろうか。
その為の話し合いを早急に持ちたいと思う一方で、もっと良くこの世界の制度や地形などの様々な事を調べてからでないと、将来設計を語る事さえ覚束ないのではないかという思いが、私の中でせめぎ合っている。
だって、「森を開拓したいと言うけど、具体的には、どこの地域の森を開拓したいのか?」とか「どうやってその土地を入手するつもりなのか?」とか問われても、私はまだ、それらの疑問に具体的な答えを一つも持っていないから。
最低限、自分のやりたい事に具体性を持たせないと、私の未来の展望なんて、単なる子供の憧れでしかないんだよな。
その為には知識がいる。だから私は毎日時間の許す限り、学校付属の図書館で本を借りては、自習室で読み耽っている。
一方で、本では得られない知識を得る為に、今もクロス教官に質問に行ったりしている。
(クロス教官はうちの班の担当教官を交代させられたので、既に私の相談相手役からも免除されているのだろうが、質問のついでにクローツの近状報告もしているからか歓迎されているので、こちらも遠慮なく頼っている。ただ、弟のクローツの秘密護衛の真似事をして、クロス教官からお小遣いを貰う件は、彼が担当でなくなった件をきっかけに私も反省したので、こちらから辞退して取りやめになった)
その他にも、同期や先輩といった学校の生徒や、教官や事務員、寮の料理人といった色々な立場の人に、積極的に話しかけに行ったりもしてる。
体力作りの為の早朝の自主訓練も欠かせないから、私は毎日が大忙しだ。けれどあんまりあくせくしていると余裕がないと思われて遠巻きにされかねないから、できるだけ表面上は平静を装っている。上手くやれているかはわからないが。
自分の知識不足については、この世界の住人とは前提条件が違う以上、今すぐどうにかなるものじゃない。そして学校で班のメンバーと共にある期間は短い。
そんな短い期間で完璧な下準備など出来るはずもないので、ある程度概要が纏まった時点で、彼らにさっさと相談を持ち掛けた方がいいだろう。
我が道だけを行く冒険記 アリカ @alikasupika
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