第13話 今後の展望について話し合う その1
班のメンバーが一部変わってから数日が経った。今のところはとりあえず、メンバー間の喧嘩といった大きな問題もなく、順調に推移している。
学校の授業はこれまでやってきた事に加えて、後期(一年コース)の先輩方が仕留めてきたモンスターの解体実習なども入るようになった。
この世界のモンスターは、倒したらドロップ品を残して他は勝手に消えるというようなゲーム的仕様ではないので、倒したあとは解体して、必要な部分だけ入手するという過程が必要になる。
空間魔法によって容量を拡張された入れ物……いわゆる「魔法の鞄」と呼ばれる魔導具もあるのだが、それらは作るのに、空間属性に適性のある魔法使いと、空間属性を持つ魔物の特定の部位のどちらもが必要となるので、とても品薄で高価となり、簡単に手に入る物ではないそうだ。
加えて、魔法の鞄はどんな物でも無尽蔵に入るような代物ではなく、内容量も何倍かに増やせる程度であり、そして鞄の入れ口の大きさよりも大きい物は、どうやっても仕舞えない仕様なのだとか。
……つまり、もしも魔法の鞄が手に入ったとしても、持ち運べる品には限りがあるのだ。
よって、狩ったモンスターの不必要な部分を削ぎ落し、必要な部位だけを取得する技術は、冒険者にとって必須なのである。
魚や鶏の解体くらいならアウトドアクラブで経験のあった私ですら、兎型や猪型といったモンスターの解体は手古摺ったし、心理的にもかなり大変だった。なので動物の解体経験がこれまでまるでなかったコリンなどは、とても顔色が悪くなっていたし、途中で現場を離れて吐いたりもしていた。
一方で、家族の指導で学校入学前からモンスターの狩りから解体まで経験済みだというクローツ、フィー、エバンス、ポロムの四人は、解体実習も余裕の様子だった。
まあ、この辺りはどうしても慣れが物を言うからな。私ももっと経験を積んでいかないといけないな。
「ところで、皆は学校の履修コースは半年の予定なのか? それとも一年?」
昼休み、寮で持たせてもらった弁当を班メンバーで集まって食べながら、雑談という名の情報収集をする。
この学校の班がそのまま卒業後の冒険者パーティに移行するケースも多いと聞いてから、私なりに考えてみた。やはりソロやコンビで冒険するよりは、パーティの方が生存率は高いと思う。
だがその一方で、気の合わない相手と無理に組んで活動するなんて嫌だし、自分の思う「冒険」が出来ないなんて、それこそ言語道断だ。
折角こうして異世界に来て、危険も承知で冒険者になるというのに、周囲に遠慮してやりたい事がやれないなんて御免である。なので学校にいる内に、気の合う面子を探して仲間にするというのは、確かに大事な事だ。
実はミルカが班を抜けた当初、私は内心でモヤモヤしたものを感じていたのだが、今はもう、彼女に対して何も思うところはない。
むしろ、合わないのを承知で無理に我慢し続けるのではなく、さっさと行動に移してくれて助かったとすら思っている。
それで今考えるべきは、今のこの班メンバーで、これからも一緒にやっていけそうかどうかという事であり、まず最初に確認すべきは、履修コースの予定となる訳だ。
もし半年コースと一年コースで分かれるならば、卒業後にパーティを組むのは現実的でなくなる。
「俺は半年コースかなー」
「わたくしもその予定ですわ」
「オラもそーだべ」
「……私もそうだ」
クローツ、フィー、ポロム、エバンスがさくっと答えた。それを見て、コリンがちょっと動揺している。
「え、そうなんだ。……実は僕はまだ決めかねてるんだ。半年経った後の自分の実力を見てから、もう半年ここで学ぶかそのまま冒険者になるかを、改めて考えるつもりだったからさ」
コリンは班メンバーの大多数が半年コースにもう決めていると知って、自分の考えが少数派なのかと迷っている様子だ。
「ああ、私も入学前はその予定だったな」
私はコリンの言葉に頷く。私も以前は同じように考えていたから、彼の考えに共感が持てる。それに他のメンバーと違って、戦闘技術がまるでない素人状態で入学してきたのが、私とコリンの二人だけなんだよな。
実はここ数日で判明したのだが、クローツやフィーは勿論、エバンスもポロムも、入学前からそれなりに戦闘技術を備えていたのだ。
しかもコリンだって、魔法に関しては入学前から習得していたみたいだから、ある意味完全な素人は私一人という状態なのである。
それでいて私がこの班の最年長であり班長だというのだから、心中複雑だ。
まあそれでも、自分なりに努力していくしかないのだが。
「ただ、パーティを組む事を前提に考えると、班メンバーに合わせるのもアリかもしれないって考え直したんだ。半年コースの人が殆どみたいだからな」
私は今の心境を正直に語る。
パーティを組む事を考えると、仲間集めを優先した方がいいのではないかと考えを改めたのだ。
勿論、一年コースを選んでも問題はないのだ。より多く学びの時間を取れるし、班を組むにしても熟練のメンバーだけとなるので、そのメンバー同士でパーティを組めれば、冒険もスムーズに進むだろう。
ただ、一年コースに進む人数は全体の半数以下らしいので、そこで仲良くなれるメンバーと出会えないと、パーティメンバーを探す事自体が困難になってしまうのだ。ならば今の時点でパーティを組めそうなメンバーが揃っているなら、そちらを優先した方がいい結果が出るかもしれない。
ただそればかりは、それぞれの選択次第とかしか言いようがない。
「あー、そっか。一年コースだと、後期でまた別に班を組みなおす事になるもんね。……僕もどうするか、もっとよく考えてみるよ」
コリンも、このメンバーでパーティを組む可能性を否定している訳ではないらしく、熟考してみるとの返事が返ってきた。
長く共にいれば自然とわかる事も多いだろうけど、私達がこうして共にいるのは、パーティを組まなければ半年で終わりだ。最初から期限が切られているのだ。
お互い積極的に話し合って、今後どうするつもりなのかを決めていかないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます