24「行ってきます」


「今後の予定は、王様に謁見してから決めてゆく感じなんです。……でも、誘っていただけて嬉しいです」


 言葉にすれば緊張感もよみがえってくる。鐘馗しょうきさんは僕の言葉を聞いて何かを思ったらしく、深く頷いて呟いた。


「特例でもない限り、王を待たせるなど万死に値する行為だな。残念だが、仕方ない」

「重ッ! 何なんですか、その時代錯誤なポリシー! こうくん大丈夫だからね? 浅葱様は細かいことをグチグチ言ったりしない、大雑把でマイペースな王様だから。安心してね」


 さらに鐘馗しょうきさんが何か言い掛けるのを肘鉄で止める木花このはさん。微笑ましいというには強烈な突っ込みだけど、今回は鐘馗しょうきさんもしっかりガードしたみたいだ。相変わらず息ぴったりのバディだよね。

 お二人とも元気そうで良かった。ここでの毎日は日本と比べてままならないことばかりだろうけど、今の龍都にとってお二人の存在が大きく頼りにされていることは、店の方との会話や王様への言及から察することができる。


 僕はもうそろそろ行かないといけない。王様との話がどんな結論にまとまるとしても、今は龍都に留まることはできない。それを話すとまたお二人に心配をかけてしまうから、ここでは言わない。

 いつか全部を上手くやり遂げることができて、世界が滅びを回避できたなら。元の世界へ帰る方法をお二人と一緒にさがす、そんな未来もあるのかもしれない――なんて、よぎった想像を今は振り払う。

 先のことなんてわからないのだから、今、僕にできることをさがしていこう。


「ありがとうございます。……行ってきます」

「いてきますにゃん」

「ご馳走様でした! センパイたちも頑張ってくださいねー!」


 それぞれにお礼を言って席を立ち、場を後にした。この時刻ともなれば店内は人も少なくて、僕らが店を出るまでお二人はずっと見送ってくれていた。

 ボルテさんの姿は見えなかったけど、食事に夢中になっていたか省エネモードの指輪形態なのかもしれない。


「良かったねー、こーやん」

「うん」


 お腹だけでなく、今は胸もいっぱいだ。銀君とイーシィもきっと同じ気持ちだよね。

 世界は徒歩で渡るには広すぎるのに、通信手段も交通手段も最低限しか残っていない。またねと手を振りあい別れた人と再会するのがどれほど難しく、方法の定まらないことなのか、今もお姉さんをさがし続けている銀君はひときわ痛感しているに違いないのだ。


 ――それでも。


「また一緒にごはんできるといいのですにゃん」

「うん」

「そだねー」


 イーシィの言葉に心から同意して、僕らは頷く。

 世界を修復するための旅はまだまだ始まったばかりで、道半ばと言えるほどには成果を残せていないけど、どんな時でも助けてくれる人が必ずいた。僕一人ではどうにもならないことも、様々な人の助けを借りてここまでやってこれた。きっと、これからもそうだろう。


 だから僕は、頑張ろうと思う。

 あきらめずさがし続けたその先で、緑と笑顔があふれる未来を見つけられると、信じて。




 終

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灰の森にて戦神舞う 羽鳥(眞城白歌) @Hatori

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