23「また一緒にご飯しましょ」


 イーシィにあの時の話を聞かせたり、お互いが別れた後どうしたかの話で盛り上がっていたら、あっという間に時間が過ぎていた。

 結局あの後、救助の必要な遭難者はもう一名見つかった。その方もこんすい状態で一刻も早い治療が必要だったため、お二人は急いで龍都へ戻らなければならなくなったのだった。


 そんな話が展開している間、僕はいつもの症状――執筆の後で襲ってくる猛烈な眠気――に負けて爆睡していたので、ちゃんとお別れを言うことができなくて。

 銀君の話によると木花このはさんは去る前に魔物避けの結界を張ってくれたそうだし、鐘馗しょうきさんは最後まで心配していたそうだから、ここで再会できてゆっくり話ができたのはすごく良かった。


 お二人の活躍によって浄化された『黒の森』は、僕が目が覚めた時にはほこらと泉を残し完全に白い灰となってしまった。それでも泉の側にあったかえでの大樹は折れた根元がそのままで、周囲の草地も残っていた。時間は掛かるだろうけど泉を中心に少しずつ緑が増えていけばいいなと思う。

 お二人はきっと気にしていただろうから伝えられて良かったし、時々様子を見にいくと約束してくれた。

 追加で頼んだ揚げ物も食べ尽くした頃合いで、銀君が僕の耳元に顔を寄せる。


「こーやん、そろそろ出発しないと遅くなっちゃうね」

「えっもうそんなに!?」


 急いでスマートフォン画面を確認すれば、予定の時刻を大きく過ぎていた。確かに今出ないと、お城に着くのがお昼になってしまう。

 慌てだした僕を見て察したように、木花このはさんがテーブルに広がった空の食器を一箇所に集め始める。手慣れた感じで銀君も手伝い、あっという間にテーブルの上には幾つかの食器タワーが出来上がった。


「あっセンパイ、僕たちホントに払いますよ!」

「いいって。そもそもこの山をほとんど平らげたのは鐘馗しょうきさんだし」


 素早く財布を取り出す銀君を制してから、木花このはさんは僕とイーシィに笑いかける。


「私らは特別任務がない限りは龍都にいるから、また一緒にご飯しましょ。――っていっても、こうくんはまだまだ忙しそうだね」



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