第2話 美味しいオムライスが作りたい
(場面変わって、後輩ちゃんのお家)
(解錠から玄関ドアの重たい開閉音と二人の靴音、レジ袋が揺れるカサカサ音)
「んしょっと……」
(靴を脱ぐ音)
「センパイ、靴はそっちの靴箱に入れちゃってください」
(靴を戸棚に入れる音)
「スリッパです、どうぞ♪」
(履いてから、二人で歩く)
(リビング扉の軽い開閉音)
(あなたが袋を床に置く。ガサッという音)
(後輩ちゃんも一緒に荷物を置く)
「ふあー……荷物持ち、とっても助かりました!」
(あなたは落ち着かない様子)
「お腹空きましたよね、早速…………って、センパイどうしました? そんなにそわそわして」
「……うちに来るの三回目ですよね。なんだか今日はやけに緊張してません?」
「……親の気配がない、から? あー言ってませんでしたね。実は結婚記念日でして。夫婦水入らず、今頃は夜景の綺麗な高級レストランで絶品のディナーを堪能しているかと!」
「です、ね……はい。私とセンパイの二人っきり……つまりそういうことになります」
(少しの沈黙)
(照れ気味に)
「あ……あはは! や、やですね〜もうっ! 変に意識とかしないでくださいよ! 私とセンパイの仲じゃないですか!」
「そうですよ! 今更緊張なんて、なんか変です!」
(またしばらく間があって、後輩ちゃんが小さな息を漏らす)
(袋をガザゴソとあさり始める)
「買ってきた食材の仕分けをしますね! ほらセンパイもっ、手伝ってくださ〜い!」
(二人で袋をあさる)
「一先ず使う分はこっちに並べましょうか、他のものは冷蔵庫にしまっちゃってください♪」
(キッチンに食材を置いたり、冷蔵庫を開けたり、近い距離で二人黙々と作業)
(時折り、後輩ちゃんの微かな息遣いが聞こえる)
「さてっ、次に下準備を始めましょう! 確か工程をメモした紙がこの辺りに~……♪」
「……はい? その前に特訓について詳しく知りたい……ですか?」
「しょうがないですね、特別に教えてあげます! センパイ、聞いてください! 私は考えたんです。好きな男の子に振り向いてもらうためには何が必要なのか」
「それはズバリ……胃袋を掴むことです!」
「三大欲求の一つでありながら衣食住の中心をも占める食は、私たち人間に必要不可欠……美味しいご飯が毎日のように食べられたら最上級の幸せ……特に、結婚を前提にした恋愛では料理の腕前がそれなりに重視される傾向にあると思うんですよ」
「ふふっ、つ・ま・り! 料理が上手だと大きなアピールポイントになるってわけです!」
「どうです? ピンときました?」
「その前に振り向かせたい男がいるのかって……」
「そ、それはっ……!」
(そわそわしながら)
「わ……私も年頃の女の子ですし? 気になっている人の一人くらいは…………ちらっ」
「……な、なんでもないです!! あくまで将来を見据えての話です!!」
「こほんっ……とにかく! 料理の腕前を磨いて、好きな人の胃袋を掴めるようになること……センパイにはそのための特訓に付き合っていただきます!」
(勢いよく腕まくりをする音)
「初心者なのでお手柔らかに! よろしくお願いします!」
「作るものはオムライス……いえ、世界で一番美味しいオムライスですっ! 目標はでっかく、が私のモットーですからね!」
「もともと今日はそのつもりで、一人でレシピを見ながらああでもないこうでもないと奮闘するはずでした。それが、センパイという強力な助っ人が加わって、本当に心強いです♪」
「なぜオムライスを選んだのか知りたい、です? ふふ、ふふんっ……センパイ、良い質問ですね!」
「オムライスと言えば日本発祥の料理で、洋食の定番メニュー……そして男の子の大好物です! 美味しく作れたらポイント高いって思いません?」
「分かっていただけて嬉しいです♪」
「ちなみに、料理工程が複雑すぎなかったり一食分の費用も控えめだったりで練習のハードルが低いというのも決め手にあったりします。近頃は卵の高騰が激しいですから一概に言い切れない節はありますけど……」
「っと、そうだ。センパイ、オムライスの腕前に自信はありますか? 人並みくらいにできるものと見込んでお誘いしたんですけど……」
「パ……パッカーンオムライスを練習して作れるようになった……ですか!? す、すごいじゃないですかセンパイ!」
「卵の真ん中に切れ目を入れたらふわとろの衣が左右に広がってチキンライスを優しく包み込むという、オムライス動画では定番のアレ!」
「私もできるようになりたいです! センパイ、ぜひともご教授お願いします!」
頑張り屋な後輩ちゃんは世界で一番美味しいオムライスを作りたいらしい 錠 @qawsed0410
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