第46話 新聞
無事家に戻ってきたことを両親はとても喜んでくれました。
穂波は地元の病院に入院して、どんどん回復していってるそうです。
でも、わからないことがひとつだけありました。
「今日もニュースになってなかったね」
あの公園で正樹と一緒にベンチに座り、私は呆然と呟きました。
あれだけの爆発があったし、私と穂波の証言もあったのに、子供たちが集められている炭鉱についてなにもニュースにならないのです。
あそこで苦しんで死にかけている子たちのことを誰も記事にしないのです。
「もしかしたら、もっと大きな力が動いてるのかもな」
「大きな力?」
正樹は頷き、それ以上はなにも言いませんでした。
脱出してきた私達の力に及ばない存在がついているかもしれない。
それでも私はこれを誰かに伝えていかなきゃいけないと思いました。
だからあれから10年も経過した今、あなたを呼んだんです。
「う~ん……子供だけの労働か」
久保田瑞希から聞き出した話はとても荒唐無稽で記事にする気にはなれないものだった。
いくらフリーライターの俺でもまるっきしの嘘は書けない。
「この話はなしかな」
俺は久保田瑞希の発言を録音したデータを引き出しの中にしまい込む。
そのとき、アパートの玄関ドアが開く音がしてあいつが買い物から帰ってきた。
3年前に出会って付き合い初めて、あれよあれよと一緒に暮らすようになった子だ。
可愛い見た目に反してちょっと気性の荒いところのある、猫みたいな子。
「なぁ、子供ばかりの鉱山があるって話、信じるか?」
「はぁ? なによそれ?」
彼女は関西訛りの声で返事をする。
それもまたいい。
「この前記事の取材に行っただろ? そのとき仕入れたネタだよ。子供ばかりが働いている鉱山があるって」
そう説明すると、彼女が珍しく興味を持ったようで、買い物袋を手に下げたま近づいてきた。
「それって誰?」
「誰って?」
「取材した人やよ」
「あぁ。久保田瑞希って子。お前の一個下」
「瑞希……」
「どうした? 佳苗」
佳苗は目を見開いてその場に座りこんだかと思うと、突然子供みたいにワンワン泣き出した。
「助かったんや」とか「瑞希のおかげで、私も出ることができたんや。あのどさくさに紛れてドアを壊して」とか、わからないことを言いながら。
それで今、その記事を書くべきかどうか俺は悩んでいる。
どうやら久保田瑞希の証言は本物らしい。
でもさ、もし大人の俺にも成績表が存在していて、『人間的評価』がつけられていたとしたらどうする?
これを記事にすることで、マイナス100になったら?
そう思うと、パソコン画面は真っ白なままで、進まないんだ。
END
あの子の成績表 西羽咲 花月 @katsuki03
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