第24話・男ども憎しみ合うより暁の大地で愛し合え

  ◇◇◇◇◇◇


 晴れ晴れしい表情で温羅がモモ太郎に言った。

「これで、一件落着ですね……モモさん」

「いや、まだだ妖怪夜泣きジジイが残っている……アラクネ頼む」

「お任せ」


 アラクネが空に向けてクモ糸の花火を放つと、しばらくして日食が起こり世界は暗くなった。


 ◆◆◆◆◆◆


「合図だ」

 谷にある開いた天の岩戸の前で座っていた。スサノオが立ち上がる。

 スサノオが、キン太郎と熊ノ海に言った。

「じゃあ、もう一度合図があったら岩戸を開けてくれ……岩戸が開くまで、兄貴のアマテラスから借用した、岩戸隠れの力でこの世界を闇に包むから」

「おう、しっかり太陽を隠していろよ」

 スサノオとエロス神が天の岩戸の中に入って、大岩の戸が閉められると世界は日食の暗さに包まれた。


  ◆◆◆◆◆◆


 日食で暗くなると、モモ太郎が叫んだ。

「妖怪夜泣きジジイ! 出てこい!」

 モモ太郎の呼び声に怒りの形相で疾走してくる、老マー・リン。

「誰がぁ、妖怪夜泣きジジイだぁぁ! ん? 爆弾卵はどこにいった?」


 間髪入れずにモモ太郎が言った。

「単刀直入に言う、カグヤを男に戻せ」

「単刀直入に答える、イ・ヤ・ダ……ちょうどいい、お前たちを本来の姿に戻してやる」

「そうはいくか! アラクネ!」

「あいよっ」

 アラクネが二発目のクモ糸花火を日食の空に向って放つと、キン太郎と熊ノ海が放り投げた岩戸が近くに落下して。

 空は真昼の明るさに戻った。

 両目を押さえて、近くにあった洞窟に逃げ込む老魔法使いのマー・リン。

「ぎゃあぁぁぁ! 目が、目がぁ!」

 洞窟に逃げ込んだ、妖怪夜泣きジジイに向って、粘着質のクモ糸を投げるアラクネ。

「その洞窟に逃げ込むのは想定済み……逃がすか」

 外に引っ張り出された老マー・リンは、谷に張られたクモの巣にはりつけ状態にされる。

「ぐはぁぁぁ、干物になる! 目がぁ目がぁ」

 日干しされて、スルメみたいに乾いていく老マー・リン。


 数分後──乾燥した、妖怪夜泣きジジイがピクッピクッと痙攣けいれんしているのを、クモの巣から外してアラクネが言った。

「見事に、干し魚みたいに乾いた老魔法使いになりました。もうこれで悪さはできないでしょう……ここからいぶせば『老魔法使いの〝いぶりがっこ〟』の完成です」

 アラクネは、乾燥した老マー・リンを竹竿を組んで作った干し竿に引っ掛けて、燻製の準備をしながら呟いた。


「あなたは異世界国で、女にも男にも愛されないコトで心が荒《すさ》んでいた。でもこの童話国で妖怪夜泣きジジィと揶揄やゆされていじられていた時のあなたは、どことなく楽しんでいるようにわたしには見えました」


 アラクネは、老魔法使いの体に染み込んだ、ホコリを叩き払いながら言った。

「もしかしたら、この世界もまんざらではないと、思いはじめていたのではないのですか? けほっ、しかし叩けば悪いホコリの出てくる老体ですね」


  ◇◇◇◇◇◇


 妖怪夜泣きジジイの退治が終わり安堵する中、モモ太郎だけが渋い顔で言った。

「結局、カグヤを男にもどすコトはできなかったな」


 その時、純白の等身サイズの卵が現れて、割れた卵の中から白い魔法使いが出てきて言った。

「女から男にもどす魔法は、あたしがやりましょう」

「お、女! 童話国に女が! ひっ!」

 白い魔法使いの女性の姿に、ガラガラ・ドンとティンカー・ヘルは怯えて大きく後方に飛び下がる。

「今回の侵攻で、異世界国と童話国を繋ぐ物流ルートが完成しました……みなさん、これで安心して愛し合ってください……ぐふふふッ」

 白い魔法使いは……一般的に言うところの、薄い本を愛読する、男同士の恋愛が大好きな腐った女子だった。


  ◆◆◆◆◆◆


 童話国の草原の樹の下に寝そべったり樹に背もたれて、モモ太郎、温羅、魔王、カグヤの四人は、草原を走り回っている白馬アー・サーと、その白馬に乗ったアー・サーを眺めていた。

 平和な時間が流れる午後──温羅が寝そべっているモモ太郎に訊ねる。

「そろそろ、決めてくださいモモさん……三人の誰を選ぶのかを」


 三人のうち誰を選ぶのかの温羅の問いに、モモ太郎は。

「オレは、童話国のモモ太郎だ……それでいいじゃないか」

 そう答えた。

 モモ太郎の返答を聞いた男カグヤは。

「モモらしい、答えだな」

 そう言って苦笑した。


 モモ太郎は風で揺れる高原を見て。

 いつの日か、朝焼けで暁色に染まった大地で。

 男たちが愛し合う姿を想像して、モモ太郎の厚い胸板の奥が熱くなった。


【ラブ・男ども憎しみ合うより暁の大地で愛し合え】~おわり

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ラブ・男ども憎しみ合うより暁の大地で愛し合え 楠本恵士 @67853-_-

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