最終話『未来のことは分からないけど』

 いつもと変わらない、大学行きの電車を待つ。

 少し変わったのは、スマホに表示された通知だけ。

 電車の待機列に並んでいた僕の元に、猫のスタンプが送られてきた。


「そろそろ来ると思ってたよ」

「あっ…えへへ…来ちゃいました…」


 振り返ると、僕の服の裾を摘みながら照れ臭そうに笑う夢舞さんが立っていた。


「早速それ使ってくれたんだ」

「せ、せっかくくれたので…」

「なら良かった!他にもバリエーションあるんだけど見る?」

「ホントですか…!?ぜひ…!」


 夢舞さんは食いつくように僕の画面を覗き込んだ。

 彼女は猫系の物に興味があるらしく、今も猫の形を模したポーチを肩からかけている。


「猫好きなの?」

「は、はい…でも飼うのは…怖くて…」

「じゃあ猫カフェとか行ってみない?」

「それって…想樹さんと一緒に、ですか…?」

「うん一緒に!」


 以前のまでの僕なら、ここで躊躇っていたと思う。

 けど今の僕は違う。


「夢舞さんとなら楽しめると思ってね。どう?」

「っ!…ぁぅ…えっと…」


 夢舞さんの顔がどんどん赤くなっていく。

 最後にはポーチで顔を隠してしまい、そのまま動かなくなってしまった。


「夢舞さん?」

「…わ、私もっ…想樹さんとなら……はい」

「一緒に行ってくれるの!?」

「……ひゃぃ…」


 小さくも力強く夢舞さんが頷いた。


「やった!じゃあ決まりだね!行こうか!」

「えっ、今からですか…!?」

「もちろん!善は急げってね!あ、もしかして今から予定あった?」

「予定というか…大学の講義が…」

「もしかして出席日数とかヤバい感じ?」

「いえ、無遅刻無欠席です…」

「じゃあ1回くらい大丈夫だ!僕はあと3回休んだらアウトだけどね」

「そっちの方がヤバいじゃないですか…!?」

「良いの良いの!ほら行くよ!」

「あっ…!」


 僕は夢舞さんの手を掴んで、電車の待機列から飛び出した。

 彼女はちょっと困ったような顔で笑っていた。

 これからの事は分からないけど、今度は後悔しないように踏み出してみるよ。

 あの時手を引いてくれた夢舞さんに向かって。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

偶然出会った陰キャ少女とまったり交流するだけの話 転校生 @Tenkousei-28

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画