第5話『これからはこれで』
喫茶店で一通り話し込んだ後、僕達は店を出て駅へと戻ってきた。
夢舞さんは相変わらず顔を赤くしていて、俯いたまま僕の横を歩いていた。
「夢舞さん…やっぱり恥ずかしい?」
「………………」
夢舞さんが無言のまま頷く。
さっきよりマシになったとは言え、夢舞さんの頬は赤くなったままだ。
2時間も待ち続けていた事がバレたのが、余程恥ずかしかったのだろう。さっきから一度も目を合わせてくれない。
「そっか…僕は嬉しかったけどね。夢舞さんがそんなに会いたがってるって知ってさ」
「…っ!………本当…ですか?」
「うん、誰かに会いたいって思われた事なんて無かったからね。素直に嬉しいよ」
実際、僕は他人に誘われるよりも誘うことの方が多いタイプだ。必然的に動く時は主体になりやすい。
その反面、誰かに求められる事はほとんど無い。
自分から動かないと忘れられるような存在だからこそ、夢舞さんの行動はシンプルに嬉しかった。
「でも無理するのは良くないよ」
「それはっ…!……ごめんなさい…」
「いや謝らなくていいって!」
赤く無くなったと思ったら、今度は落ち込み始めた。何とか励ましてあげたいが、どうにもいい言葉が浮かんでこない。
「うーん…あ!じゃあこうしよう!」
僕はスマホを操作してLINEスタンプを夢舞さんに送った。通知音にビクンッ!と驚いた後、夢舞さんは恐る恐るスマホ画面を覗き込んだ。
「……かわいい…」
「でしょ?お気に入りのスタンプなんだ」
僕が送ったのはデフォルメ調の猫が壁からひょっこりと顔を出している物。
構って欲しそうな顔をした猫のスタンプを見て、夢舞さんは目を輝かせていた。
「今後は話したくなったらこれ送ろうよ。あ、同じスタンプを使えるようにしとくね」
「ぁ…ありがとうございます…貰っちゃった…♪」
夢舞さんは試すように色んなスタンプを僕へと送ってきた。1つ送る度に小さく可愛いと言い続けている姿が、とても愛らしく見えた。
「い、いっぱい送っちゃっても…良いですか…?」
「もちろん!」
「やった…!」
夢舞さんが小さくガッツポーズをする。
こんなに喜んでくれるなら、上げた甲斐があったってものだな。
しばらくの間、僕は夢舞さんから送られてくるスタンプと嬉しそうに笑う彼女を笑顔で見守っていた。
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