第4話『また会ったね』
夢舞さんと出会った翌日、僕は大学から帰ろうと駅で電車を待っていた。
その時、ふと後ろから服の裾を引っ張られた。
「ん?」
「…ど、どうも…えへへ…」
「夢舞さん!」
振り返ると、控えめに手を振る夢舞さんが居た。
何故かちょっと疲れてるようにも見えるが、多分大学帰りだからだろう。
「夢舞さんも大学帰り?」
「は、はい…奇遇ですね…」
「そうだね。こんなに偶然が続くなんて…やっぱり僕達って何かあるのかな」
「えっ!?…あっ…そうかも知れませんね…」
夢舞さんの反応に、僕は少し違和感を覚えた。
どうにも無理をしているように見える。返事も上の空気味だし、何か隠してるのかも。
…けどそれをいきなり聞くのはちょっと…そうだ!
「夢舞さん、この後って空いてる?」
「特に予定は…」
「じゃあちょっと行きたい場所があるんだけど…一緒にどうかな?」
「わ、私なんかで良いんですか…?」
「もちろん!むしろ夢舞さんと行きたいし!」
「そ、それなら…行きます…!」
「よしっ!じゃあ行こっか!」
僕は夢舞さんの手を引いて改札口の外へと出た。
それから僕達が向かったのは駅の裏通りにある小さな喫茶店だった。
少し古びてはいるが、趣のある外観が僕達を静かにもてなしていた。
「ここって…」
「ゼミの友達に教えてもらったんだ。落ち着ける良い場所だってね」
僕達は店の中へと入った。
店内には少し人が居るだけで、ほとんど席は空いている。僕達は窓際の席を選び、向かい合って座った。
「僕はコーヒーにしよっかな。夢舞さんは?」
「私は………同じので…」
程なくして注文したコーヒーが席に届けられる。
僕はそのまま飲んでみたが、夢舞さんはテーブルに備え付けられたミルクを2つ、コーヒーに入れてから飲んでいた。
「甘い方が好きなの?」
「え?あ、はい」
「へぇーそうなんだ」
「ま、まぁ…それなりには…です」
「僕も甘いの好きなんだけど、甘すぎるのはちょっと苦手かな。なんて言うんだっけ?ほらこう…ちょうどいい量的な?」
「適量…ですかね?」
「そうそれ!適量が1番だ!」
コーヒーを飲みながら、談笑に花を咲かせる。
そうしていると、ふと夢舞さんが質問してきた。
「…何で急に喫茶店に…?」
「あー…ちょっと夢舞さんが無理してるように見えたからさ。休めればいいなーって」
「っ!」
夢舞さんは驚いた顔をした後、顔を真っ赤にしながら口をパクパクとさせていた。
何だ?何かまずいことでも言っちゃったかな?
「え、い、いつから気付いてたんですか…!?」
「僕の袖を引っ張ってた辺りかな?」
「最初じゃないですかっ…!」
夢舞さんの声が珍しく大きくなる。
らしくない彼女の反応に、今度は僕が面を食らった。
「恥ずかしい…穴があったら入りたい…!」
「別に疲れる事くらい恥ずかしくないでしょ?」
「…え?………あっ…あぁぁあ…!」
「夢舞さん!?どうしたのさ!?」
「……あの…もしかして、何で疲れてたかまでは…分かんない感じですか…?」
「うん、そうだけど…大学帰りで疲れてただけじゃないの?」
「ち、違います……私が疲れてたのは…2時間くらい駅で立ってたからです…」
「何でそんな──」
言いかけた時、頭の中で点と点が結ばれた。
妙に恥ずかしがっていたことと駅で2時間も待ち続けていたこと、これらが示すものは…
「もしかして…僕のことを待ってた?」
「っ!……そ、そう…です…」
夢舞さんは耳まで顔を真っ赤にしながら頷いた。
マジか…わざわざ僕が来るのを待っていたのか。
恥ずかしがる彼女の姿が妙に可愛く見えて、僕は思わず笑ってしまった。
「ぷっ…あははっ!そんなに気にしなくていいって!むしろ待たせちゃってごめんね!」
「ぇ…ひ、引かないんですか…?」
「全然?何かされたとかじゃないし。でも今度からは連絡欲しいかな」
「ぁ………ひゃい…」
夢舞さんは顔を抑えて小さく返事した。
その後もしばらくの間、夢舞さんは恥ずかしがって目を合わせてくれなかった。
別に可愛らしくていいと思うんだけどなぁ…
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