第3話『たった一言で』

「いやー…まさか最寄り駅まで一緒だったとは…」


 駅のホームでひとしきり話した後、僕と夢舞さんは帰路に着いた。

 着いたのだが、僕たちの最寄り駅は同じだったらしく、結局電車から降りた後も2人で歩いていた。


「凄い偶然ですね…」

「ホントにね!」


 僕達はお互いに顔を見合せて苦笑した。

 偶然出会った2人の最寄り駅が同じなんて、いったいどの位の確率なんだろう。


「僕はこっちなんだけど、夢舞さんは?」

「あ、私は反対…です」

「じゃあここでお別れだ。改めて…話聞いてくれてありがとね」

「そ、そんなかしこまらないでください…!私が余計な勘違いをしただけですし…」


 夢舞さんと話してみて、僕が自殺しようとしていたっていう誤解は完全に解けた。

 勘違いを申し訳ないと思っているのか、夢舞さんはちょっと申し訳なさそうにしている。


「気にしなくていいって!おかげで友達が1人増えたんだしラッキーだったよ」

「と、友達…そうですよね…!私たち…友達…♪」


 夢舞さんは友達と言うと本当に嬉しそうに笑う。

 あまりに純新無垢に笑うものだから、こっちまでつられてニヤニヤしてしまう程の笑顔だ。


「それじゃ、またね夢舞さん!」

「え、えぇ…!また…」


 別れの挨拶を交わして、僕達はそれぞれ反対方向へと歩き出した。

 この日の帰り道は、いつもより少しだけ歩きやすく感じた。



 ∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵



 植道さん別れた後、自宅の一軒家へと帰ってきたは真っ直ぐに自分の部屋に入り、そのままベッドへと飛び込んだ。


「友達…ウェヘヘ…♪」


 植道さんの言葉を思い出しては、ベッドの上で足をバタバタと動かす。

 何度思い返しても嬉しくなる言葉だ。


(勇気出して良かった…)


 あの時、ホームで植道さんを見かけた時は凄く心配になった。

 だってあの時の植道さんの眼は、毎日私が鏡の前で見ている眼だったから。


 引っ込み思案で友達も居なくて、いつも孤独だった私と同じ眼をした植道さん。もしかしたら私は、彼を通して自分が救われたかったのかも。


(ホント…自分勝手だなぁ…私…)


 思い出した自己嫌悪で涙が出てきそうになる。

 私はいつもそうだ。優しい自分を気取っておいて、結局は他人によく思われたいだけ。そんな私に付きまとわれたんじゃ植道さんも迷惑するだけだ。


(やっぱり、植道さんとはもう会わない方が…)

 そう思った時、スマホから通知音が鳴った。


「ひゃんっ!?…あ、あぁ…LINEか…」


 普段LINEなんて来ないからびっくりしちゃった…

 画面を確認してみると、メッセージの送り主は植道さんだった。


『今日はありがと!すっごく楽になったよ!』

「ぁ…」


 私は緊張に震える指で返信を打ち込んだ。


「『私も植道さんと話せて楽しかったです。またお話しましょうね』…変じゃないよね…?」


 少し堅苦しくなってしまった文章を何度も見返してから、慎重に返信を送った。

 メッセージを送信してから数秒後、今度は植道さんから猫のスタンプが送られてきた。

 たったこれだけのやり取りで、私の胸を支配していた自己嫌悪は鳴りを潜めていた。

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