第2話『初めての友達』
僕と少女は黙ってベンチに座っていた。
『話を聞いてくれ』ってお願いした以上、僕が話すべきなのだがイマイチ切り出し方が分からない。
どこから話すべきかと迷っていると、少女の方が口を開いた。
「お、お名前…なんて言うんですか…?」
「僕の?僕は
「いえ!わ、私は…
少女──夢舞さんは震える声で名乗ってくれた。
「う、植道さんは…学生さん、ですか?」
「うん大学生。夢舞さんは高校生かな?」
「わ…私も!…大学生です…えへへっ…」
誤魔化すように夢舞さんが笑った。
愛想笑いと緊張感が混ざりあった、何とも言えない笑顔だ。
「それでその…嫌なことっていうのは…」
「あぁ、えーっと…まぁ簡単に言うと失恋したって感じかな」
それから僕は自分の身にあった事を話した。
3年間の片想いが終わったこと、踏み出せなかった自分が情けないこと、今更後悔していること。
何度も詰まりながら話す言葉を、夢舞さんは黙って聞いてくれた。
「──ってことで…絶賛傷心中なんだよね」
「そう…だったんですね…」
「良くある話だと思うよ。別に何も珍しい話じゃない。ま、高校卒業から3ヶ月で結婚ってのは早いなーって思うけどね」
僕と一緒にいた高校3年間を、彼女は3ヶ月で超える体験をしてしまったのだろう。
今となっては何もかもが遅すぎる。
「ごめんなさい…」
「どうして夢舞さんが謝るのさ」
「だって私…話聞くだけで植道さんに何もしてあげられなくて…」
「大丈夫だって!聞いてもらえるだけでも楽になるからさ」
いくら積み重なった後悔を吐き出した所で時間は巻き戻らない。
それでも溜めたままにするよりも、吐き出せる方が何倍も楽だ。
「でも…まだ辛そうですし…」
「そりゃあ辛いよ。でも…落ち込んでいても何も変わらないからね」
「うーん…あ!じゃあ…植道さんが立ち直るまで、私が傍に居る…って言うのは…どう、ですか…?」
「えっ?」
「も、もちろん変な意味じゃないですからね!?ただのその…友達としてですから!」
「………………」
夢舞さんの提案を聞いて、僕は暫し悩んだ。
悩みを聞いてくれたのはありがたいが、何も立ち直るまで傍にいる必要はない気もするんだけど…
「あの…どう、ですか…?」
不安そうな夢舞さんがこちらを覗き込んでくる。
その様子が何だかおかしくて、僕はふっと笑った。
「友達かぁ…良いね、じゃあそうしよっかな」
「っ!…や、やった…!」
夢舞さんの不安そうな表情は一瞬で消え失せ、パッと笑顔の花が咲いた。
さっきまでのぎこちない愛想笑いとは違う、心からの笑顔だ。
「じゃあはい、これ僕のLINEね」
「あ、ありがとうございます…!えへへ…初めて友達できちゃった…♪」
LINEを交換しただけなのに、夢舞さんは嬉しそうにスマホの画面を見てニヤニヤしていた。
その様子はさながら、お気入りのオモチャを貰った子供のようだ。
「僕が初めての友達なの?」
「はい…私、大学に入ってから1年間ずっと友達いなかったので…」
「ん?1年?ってことはもしかして…大学2年生…?」
「そうですけど…あ」
「マジか!まさかの歳上だったの!?」
「そ、そうです…!私お姉さんなんです…!」
夢舞さんはそう言ってエッヘンと胸を張って見せた。どう見ても僕より歳下にしか見えないのだが、どうやら彼女は1個上の先輩らしい。
「じゃあ夢舞先輩だ!」
「先輩…!いい響きですね…!でも…友達なのに先輩呼びって言うの…ちょっと…」
「そう?じゃあ夢舞さんって呼ぼうかな」
「そ、そっちの方が…好きかも…です…」
「分かった、じゃあこれからヨロシクね!夢舞さん」
「っ!…はいっ…!」
次の電車が来るまでの間、僕たちは他愛ない話を交わしてはずっと笑顔だった。
僕の胸を支配していた失恋の苦しさは、いつの間にか心の奥の方へと押し込まれていた。
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