偶然出会った陰キャ少女とまったり交流するだけの話

マホロバ

第1話『後悔の先で出会う』

 昨日、高校時代に片想いしていた相手が結婚した。



 高校を卒業したのは今から3ヶ月前。大学生となった後でも彼女とは何度か連絡を取り合っていた。

 それでも昔よりは頻度は減り、いつしか会う機会もほとんど無くなっていた。


 僕達は別に付き合っていた訳じゃない。

 ただ仲の良かった男女と言うだけ。高校生だった頃の3年間、その関係に甘んじて告白に踏み込まなかっただけの話だ。


(まぁ告白したとしても成功したとは思えないけど…)


 彼女は元気のいい人だった。

 誰に対しても優しく、明るい人だった。

 そんな人柄にいつしか僕は惹かれていたんだ。

 でもそれも昔の話。彼女は他の人と結婚し、彼女だけの幸せな日々へ歩み始めた。


 そこに僕─植道うえみち 想樹そうきはいない。


「そういや結婚祝い…送ってないなぁ…」


 結婚式の招待も断り、昨日はひたすら泣いていた。

 おかげで今でも目の下に泣いた跡が残っている。

 何とか外に出てきた今日でさえ、大学に通うだけで精一杯。1日通して誰とも会話すること無く、今は帰りの電車が来るのを待っている。


 程なくしてアナウンスが流れた。ようやく電車が来るらしい。

 遠くから電車の走る音が聞こえる。僕は無気力なまま1歩前へと踏み出し──


「だ、ダメです!!」


 ──瞬間、後ろから誰かに抱き着かれた。

 腰に手を回す形で拘束され、背中には柔らかい感触が伝わってくる。

 驚いて振り向くと、そこには小柄な少女が泣きそうな顔で僕に抱き着いていた。


「お、お兄さん!今何しようとしたんですか!?」

「何って…別に何も…」

「じゃあ…何で前に出たんですか…?」

「さっきから何を言って──」


 その時、ホームに電車が入って来た。

 そしてようやく僕は彼女が何を言おうとしてるのか理解した。


「もしかして…僕が飛び込むと思った…とか?」

「そ、そうです!何か元気なそうだったし…」

「誤解だよ!そんな気全然ないから!!」

「…本当ですか?」


 見知らぬ少女は疑いの表情を崩さなかった。

 参ったな…落ち込んでいるのは本当だが、自殺しようだなんて微塵も考えていないんだけど…


「えーっと…とりあえず大丈夫だから!全然平気!」

「で、でもやっぱり心配です…何か嫌な事でもあったんじゃないんですか…?」

「それは…っ」


 あったよ、と言いかけて慌てて口を塞いだ。

 大学生にもなって失恋して落ち込んでましたなんて事を、初対面の人に言うのは流石に恥ずかしい。

 何か良い言い訳を…と思案しているうちにホームに電車の出発を告げるアナウンスが流れた。


「あ、僕もう行かなきゃ」

「そう…ですよね…」


 少女は僕から手を離すと、悔しそうに俯いた。

 その姿を見て、僕は傲慢にも慰めたいと思ってしまった。原因は自分だと言うのに。


「……ねぇ、時間ある?」

「へ?」

「思い出したよ…嫌な事があったんだ。誰かが聞いてくれれば楽になるかも」

「っ!…き、聞きます!私でよければ!」


 この少女の優しさに、僕は甘える事にした。

 ホームのベンチに移動した僕達は、電車が出発するのを静かに見送った。

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