第13話 かまってほしくてしたことだから?

「それにしてもだよ。なんでかなえは、よく知りもしない上級生に言われたことを真に受けちゃったかな」


 杏がまゆをひそめた。


「何度も自分の中で声がしてた。調子にのんなよって。変な話だけど。また誰かにあんなふうに言われたらって思うと、怖かったんだ」

「だって、どうでもいい人じゃん。やっぱり疑問」


 指摘されてみるとたしかにわからない。

 彼らに言われる前から、大柄で、色黒、天パの自分はかわいくないと自分にがっかりしていた気がする。だからいつかみんなもそう思うんじゃないかと疑ったんだ。


 色の白いは七難かくすということわざ。天使の輪のできるストレートヘア。女子は華奢でか弱いのがよくて、反対に男子は活発でたくましくないといけないというイメージ。

 そこから外れている自分は可愛くなれないと、いつの間にか思い込んでいたのかもしれない。

 いくらなんでも誰にも嫌われたくないとまでは思っていないけれど……。


「なんだかんだ、同じクラブの先輩だしさ。ふつうに悲しい」


 由美子がはっと何かひらめいた顔をした。


「もしかしたらその上級生、かなえちゃんのことが気になってたんじゃないかなあ。かなえちゃんはノリがいいから、気を引けるとおもったのかも」

「気を引ける……あたしの? ないない」


 まさかそんなはずないと否定すると、杏が急にバンとテーブルに手をついた。


「なにそれ。かんちがい女とかゴリラとか言って、どうしていい関係になれると思うの。話したこともないのに。距離感バグってるっ」

「急にどうした、杏。落ち着いて」


 激しい反応にあたしたちは目を丸くした。宥めようと声をかける凛花も圧倒されている。普段イヤなことを言われても笑って流してるって話してたのに。

 頬を膨らませてさらに続ける。

 

「なんでそこまでわかってやんなきゃいけないか、わかんないのよ。私には」

「そうだけど、まーそういうヤツらもいるんだなって話で」


 凛花が由美子の言葉を噛み砕くが杏には全く納得した様子はない。がまんの限界が切れたって顔だ。日ごろ怒らない子が怒ると怖い。


「かなえちゃんがわかってあげるべきだったって意味じゃないよ」


 由美子も顔の前で手を振って弁解する。


「よくさ、男子は好きな子にいじわるするんだって言うよね。どう考えても相手が悪いってわかってるのにさ。由美子はそれ、平気なの?」

「えーっと……ごめん」


 どうしてそんな話になったのかピンときていない顔で首を傾げた。杏は自分を落ち着かせるように、ふうっと大きなため息をつく。


「こっちこそ、ごめん。なんか、悔しくて。ごめん」


 立ち向かえばノリのわからないやつにされ、流していれば当然言われっぱなし。どっちにしろ自分を守ることはできない。

 ふだんにこにこしている杏も、何かしら苦悩してるんだろうか。

 凛花がざっくりまとめにかかる。


「まーね。この世のルールじゃ、傷ついたら負けだから」

 

 由美子は黙り込んだまま、授業中数式を解いているときのように真剣な顔をしていた。

 沈黙が気まずいのか、凛花が細い腕を組んで続ける。


「私も反省しなきゃな。かなえがやだって言ってもぜんぜん本気にしてなかったし。なぜかいいんだって思ってたもん」

「は?」

「それがお約束っていうか。今の杏みたいに本気でこられたら、引く。ノリが悪いなって腹を立てると思う。ソイツらがかなえに気があったかどうかはわからないけど、どーせ、私と同じで、軽い気持ちでしょ」


 同じ? 凛花とあの上級生が?

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