第14話 ごめんね、ありがとう。
「ちょっと待って。軽い気持ちって。あの日も本気にしてなかったの? あんなに怒鳴って、あたしひとりで帰ったのに」
心底おどろいた。
一緒にチョコ作りたくないとまで言ったのに。
平気でグループラインに誘ってきたのも、あたしの言うことを気にしていなかったからなの?
「さすがにマズいかもと思ったよ? でもいつもなんだかんだ許してくれてたじゃん。かなえも本当はいじられたいと言うか、だからなんて言うの、青天の霹靂|(へきれき)? みたいな……」
はぁ、と間抜けなあいづちを打つ。ここまで伝わっていなかったとは、こっちこそ青天の霹靂だ。
「調子こいてる男子もおんなじかなって。何にも悪いと思ってない。ちょっとくらい怒られても、いじられて喜んでるんだって思うし、笑って流してたら受け入れられたって考える。マジギレされたら冗談のわからないヤツってこきおろして、自分を守ればいいんだし」
「えっ、えーっ? ひどくない?」
ぶっちゃける凛花に杏が声を裏返す。
「言われる側で考えてるみたいだけど、杏だってそうでしょ。グループライン作る時、ショッピングモールで気まずかったことなんか忘れてた。違う?」
「忘れてないよ! たしかに、かなえだから大丈夫じゃない? って言ったけど……」
「帰り道、あんなに怒んなくてもいいのにって愚痴ってたじゃん」
「それは……でも、違うのっ」
必死で言い訳しようとする杏を受け止めつつ、それはつまり、あんなに怒るなんて冗談のわからないヤツだなと自分を正当化してたってことなんだ、と思う。
さらに凛花は続ける。
「ももちゃんのことだってきっと、上級生たちにとっちゃ女子の前でカッコつけてる裏切り者って認識だね」
「裏切り者。百瀬がなにを裏切ったっていうの。最初から仲間ですらないのに」
「うーん。男を? なんていうか、お約束を楽しむセンスがない、つまんないヤツって感じね。兄のノリがイマイチな時、パパがよく言う。男じゃねーよとか、それでも男かよとか」
思わずはぁ、とため息をついた。
斜め上の発想のように聞こえるけど、でも、もし凛花の言う通りだとしたら、百瀬を女みたいとこき下ろしたことにもつじつまが合う。
お前なんか男扱いしないぞってことか。
百瀬には、通じなかったみたいだけど。
「そんな相手にばかり都合のいいお約束なんて知らないよ。じゃあ何やっても通じないってこと? 詰んでんじゃん。どうすればいいのよ」
あたしの問いに由美子も杏も凛花に真剣な顔を向ける。
「知らない。でも、これではっきりしたんじゃない? 由美子の言うとおり、あれは単なるかまってちゃんの言いがかりだって」
だから、傷付いたら負けな世界?
でも弱いあたしが悪かったんじゃない。絶対あたしのせいじゃない。
頭を声に支配されるたび落ち込んできた、あたしの時間を返してほしい。
自分はみにくいと思い込み、かわいくなりたい気持ちを押し殺したみじめな気持ちをつぐなってほしい。
おしとやかな由美子をうらやみ、一軍女子をねたみ、どうどうとおしゃれを楽しむ杏や凛花に気後れしたあたしの黒い気持ちが、そんな自分を大嫌いになっちゃったのの全部が、こんな何の根拠もない言いがかりのせいだったなんて……。
「なんか、傷ついて、あたしバカみたい」
「ちがう。バカなのは、かなえちゃんじゃない。関わり方を知らない相手の方だよ」
由美子がきっぱりと言い切った。
「それに、そんな相手をかばうことになるともわからずに、変ななだめ方をした私もバカだった。……ごめんね、かなえちゃん。杏」
ううんと大きく首を振る。
凛花が少し恥ずかしそうに口を開いた。
「私も、ごめん。かなえの気持ちも考えず、ノリが通じるのが仲のいい証だってかんちがいしてた」
「あっ、私も。なんか、いっぱいごめん。考えなしでごめん~~」
杏が泣きながら抱きついてくる。
みんな全然違うのに、でもこんなにも近い。
勇気を出して話せてよかった。
ちゃんと聞いて受け止めてくれるともだちがいて、うれしい。
「ううん。いいんだ。ありがとう」
あの日、うずくまっていた小さなあたしを、みんなが迎えに来て抱きしめてくれたような気がした。
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