第10話 不思議な夢


 子供の頃に不思議な体験をしたという人は、意外とたくさんいるのじゃないだろうか。


 私が見た夢は、幼いころの想い出だった。


 ずいぶんの昔の話で、ところどころ色褪せていたので、本当だったかどうかはわからない。


 でも、本当だったとしたら、それはとても普通ではない不思議な想い出。


 おばあちゃんと、夜の道を歩いている。


 だけど、夜のはずなのに周囲はなんだか淡い光で満ち溢れていて、歩いている道の両脇には、あの白い花がたくさん咲いていた。


 やがて私とおばあちゃんは、大きな壁の目の前にやってきた。


 するとその壁はあろうことか、私の名前を呼んだのだ。それも、うさんくさい関西弁で。


 驚いている私を見て、おばあちゃんが楽しそうな笑い声をあげ、私に言った。


『さあ、お狐様に会いにいこうかね…………』







 目が覚めた私は、眠気まなこをこすりながら大きなため息をついた。


「変な夢だったなぁ……」


 朝の陽がさす中、先ほど見ていた夢のことを考えていた。


 あんなこと現実にあるはずがないんだと、心の中で思ってはみるも、どうしても気になってしょうがない。


 私は、夢の中で体験した不思議な場所を知っているような気がしてならなかった。


 そうだ。どうせ今日の予定なんか決めていなかったのだし、朝ご飯を食べたら夢で見た場所を探しにいってみよう。


 記憶はたよりないけど、昨日のように色んな人、色んな場所へ行けば、きっと何か手がかりを思い出すんじゃないだろうか。


 持ってきた保存食で手早く朝食を済ませて外に出る。


 昨日の天気がウソのような快晴で、涼しい風が吹いていた。


 まだ朝早いというのに人々は動き出していて、畑の手入れなどをしていた。


 昨日とは違いすれ違う人も多く、あいさつを交わしたり少し立ち話もした。


 私が名乗ると、なんだトモちゃんところの孫かと、ハルさんと同じような反応が返ってくる。


 しばらく歩いていると不思議なもので、なんとなく道を思い出してくる。


 小さな村だということもあるのだろうけど、なんというか、大切な何かを取り戻していっているというのかな。


 そんな新鮮な体験に歩く速さをどんどん速くしていくと、なんとなく記憶に残っている階段をわき道に見つけた。


 どこまでも続きそうなその長い階段を上っていくと、見覚えのある鳥居が現れた。


 その鳥居をくぐった先に、キツネを祀っている小さな祠と、それを守るかのように覆いかぶさっている大きなクスノキがあった。


 そんな風に村の様々なところを歩いていくうちに、頭の中の地図がどんどん広がっていく。


 軽い散歩のつもりだったのだけど、思いのほか夢中になってしまって時が経つのも忘れ遠くまで歩き回っていった。


 まるで、幼いころの探検のようにワクワクしながら。


 やがて日も暮れる頃になり、空が夕焼け色に染まりつつあった。


 草陰から虫の鳴き声がし、トンボが空を飛んでいる。


 そろそろ帰ろうと思っていたのだけど、今日見た夢が気になって、なかなか帰り道の方に足が向かわなかった。


 そうやって目的もなく歩いていると、視界の隅に茂みの一部分だけ白く揺れている場所を見つけた。


 何だろうと思いながら近寄ってみると、それはあの想い出の花だった。おばあちゃんが大好きだった、白い花。


 しかし、妙なことに気づいた。


 周りは茂みで花の気配などまったくないのに、なぜこの部分だけ花が生えているのだろう。


 疑問に思って花の生えた部分にもう少し近寄ってみると、


「道……?」


 花の茂みの向こう側に、獣道のような、入っていくのもとまどってしまうほどの小道を見つけた。


 心臓の鼓動が激しくなっていくのを感じる。


 ここは山の中、何がいるかわからない。


 危険を感じ、背を向けようとしたけど、どうしてもこの道が気になって仕方がない。


 まるで、あの花が誘っているかのような、この道が。


「……行ってみよう」


 覚悟を決め、私は茂みの向こう側へと足を踏み出していくのだった。

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