第8話 懐かしい人々と、新たな出会い
家中の掃除が終わるころには、ちょうど夕飯の時間になっていて、おばあさんがついてこいと言って歩き出してしまった。
断ることもできず、仕方なくその背中を追って家を後にした。
今さらながら情けない気持ちがむくむくと大きくなってきたけど、こうなってしまったものは仕方がない。
おばあさんの家らしきところにつくなり、おばあさんは勢いよく玄関のドアを開け放った。
すると、まるで待ち構えていたように、壮年の優しそうな女性がおばあさんを出迎えた。
「お義母さん、お帰りなさい。あら? そちらの方は?」
「トモちゃんとこの孫たい。しばらくあの家に住むっちいうけ、晩飯くらい食わせちゃろうと思って連れてきたったい」
慌てて頭を下げる。
「ひ、柊カナミと言います。おばあさんには家の片付けも手伝ってもらって……」
「そげなことどげんでもよか。さっさとあがらんか」
そう言うと、おばあさんはさっさと家の中に消えていき、話している途中で止められた私はどうしていいかわからず立ちつくしてしまった。
「柊さんのお孫さんですか。私は柏木菜々美といいます。夕飯にはもうちょっと時間がかかりそうですから、どうぞあがってゆっくりしていてくださいね」
「は、はい、すみません。おじゃまさせていただきます……」
菜々美さんの助け舟に感謝しつつ、靴を脱いで向きをそろえ、おずおずとおじゃました。
「それにしても、大変だったでしょう? お義母さん、人の話を聞かないから」
「とんでもないです。とても助かりました」
だったらよかったわと含み笑いを浮かべながら、私を居間へと案内してくれた。
案内された居間には、おばあさんとは別にがっしりとした身体つきをした、いかにも豪気そうな男性と、わんぱくそうな男の子がいた。
「よう、カナミ! 俺のことを覚えてるか?!」
開口一番にそんな質問を投げかけられたので、ついまじまじと見てしまったのだけど、そのおかげで誰だか思い出すことができた。
「し、将志お兄ちゃん? 将志お兄ちゃんだ!」
思わず大きな声を出してしまった私を見て、将志お兄ちゃんが豪快に笑い飛ばす。
(そうだ。この家にはよく遊びにきていたはずなのに、なんで忘れてしまっていたんだろう)
「なんだ、まだ兄ちゃんと呼んでくれるのか?! そんな風に呼んでくれるのはカナミくらいしかいないぞ!」
こっちにこいと手招きをされて、私も居間のテーブルを一緒に囲むように座った。
そっか、ということは、あのおばあさんは……。
「でしたら、おばあさんは、ハルさんだったんですね?」
「なんか。お前、わしん名前ば忘れちょったんか」
忘れられていたことがショックだったようで、ハルさんはぶつぶつと小さく恨み言をつぶやき始めた。
「すみません……。ずいぶん久しぶりだったので、ちょっと記憶が曖昧で……」
まあ、よかたい、とハルさんはちょっと不機嫌そうにテレビの画面に向き直った。
「父ちゃん、このおっぱいがでかくて暗そうな女、だれ?」
「これ将太! 口ん聞き方ば気いつけんか!」
さっきまで静かにしていた男の子が、ハルさんに叱られながらも興味津々といった感じで私を見ていた。うん、でも、ちょっとハルさんの言う通り、少しは遠慮してほしいな。
「こいつはなぁ、父ちゃんがガキの頃遊んでいた奴でな。といっても、年が離れてたから妹みたいなもんだったけどな」
「ふ~~ん。じゃあ、父ちゃんの子分みたいなもんだったの?」
「子分か?! 確かに似たようなもんだったな!」
豪快に笑う将志お兄ちゃんとは裏腹に、それこそ鬼すらもはだしで逃げ出すほどのすさまじい形相をしているハルさん。でも、将太君はそんなことなどまったく気にしていない様子で、
「父ちゃんの子分なら、おいらの子分ってことだね。おいらは将太。おいらのことは親分って呼んでくれよ」
「将太ぁ! たいがいにしとかんと、尻ば張りまわすよ!!」
……なんというか、祖母・息子・孫で似たもの同士だなって納得させられる性格だ。人の話を聞かない。逆らっちゃいけない。こればかりは、頭で忘れても細胞レベルで覚えてるような気がする。
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