第8話 出兵
リンの言う通り勇者たちはまず魔王国との間に挟まるようにある獣人の国に向かった。聖女も一緒だった。さすがに姫は同行できなかったようだ。最後まで駄々をこねてたようだ。
俺はリンと同じ部隊に配属された。もちろんリンと俺は扱いが違う。リンは勇者一行の一人ということで大切に扱われているが俺は元傭兵なので雑に扱われている。それでも森の中の進軍なので皆徒歩での移動だ。
隊長はどこぞの貴族のボンボンで特別任務を任されたと張り切っている。どうやら獣人国を囮にしてこの部隊で魔王国の首都を叩くと言われている様だ。馬鹿じゃないか?
部隊の隊員は皆俺に対して冷たい目だ。しばらく何故か分からなかったがどうやら俺は勇者リンを唆し隣国に連れ出した悪人ということになっているらしい。
何故か他の勇者や王家から擁護されているとボンボンに言い含められているようで手を出してこない。何かあったら後ろから刺されてもおかしくないな。まぁ、リンが俺につけている蜘蛛がいつの間にか俺に懐いたからか何かある度に教えてくれるのでなんとかなっているが。
リンとはなかなか話すことができない。さすがに出兵すると個室なんてないからね。それでも時々蜘蛛を通じて一言二言話せる。案外落ち着いているリンにほっとする。
進路は魔王国との間の森の中だ。道がないので地図と方角だけが頼りだ。
進んでも進んでも強い魔物とは出会わない。ただリンによると認知できるかできないかのギリギリの距離で囲まれているそうだ。
それって詰んでないか?
これをおかしいと思わない他の隊員やボンボンはどういう訓練をしてきたんだ?どうやら囮どころか単なるお払い箱かもしれない。
事態が動いたのは森に入って三日目はだった。
森の中に開けた場所があった。焦げた木が倒れているのでカミナリか何かで燃えたのだろう。
隊長の指示でここで休憩を取ろうということになった。
水場を探そうと皆に背を向けたところ後ろから切りかかられた。すんでのところでよけたが俺はそのまま動けなくなった。
「動くな。動くと勇者がどうなるか」
隊長がリンを後ろから羽交い絞めにして首筋に剣をあてている。俺も三人がかりで抱えられそのまま地面に押さえつけられた。
「わるいな、姫のご指示だ。お前もそして勇者もどきも殺せってさ。この辺りなら俺たちも戻れる。魔物もこの辺りは出ないみたいだしな」
そう言いながら剣を首筋から離してリンの胸元に手を入れる。
「姫からは絶望させてから殺せって言われているからな。乙女ではないのは残念だが、まぁ、俺たちも楽しませてもらうさ」
胸元に入れた手に力を入れて服を破こうとしたとき、隊長が動かなくなる。
「なんだ、おい、何を……し、」
そのままリンを放りだし首筋を抑えて倒れた。しばらくもがいていたが動かなくなった。いつぞやの代官と同じ表情だ。
「隊長、大丈夫……死んでる」
隊長の腰ぎんちゃくの一人が隊長のそばに寄り手当をしようとしたが隊長の様子を見て叫ぶ。
腰ぎんちゃく達は慌てるが隊長のそばにいた一人も同じように倒れる。他の奴らは逃げ腰だ。
俺を押さえつけていたやつも一人が声も立てずに倒れる。
それを見て残りの二人が俺から離れようとする。
「にがすかよ」
俺は立ち上がり一人の首に剣を突き立てる。
既に隊員は混乱のさなかで、俺に向かってくる奴は騎士だけ。
「まものだあぁぁ」
残りの傭兵上がりは既に逃げ出している。
騎士達もいつ見えない魔物にやられるかわからないからか及び腰だ。
3対2となりだいぶ勝目が見えてきた。俺に切りかかってきた奴をいなして首の後ろに剣を立てる。残念ながらずれてしまったが蜘蛛が奴の背中につかまっているのが見えた。これで奴も蜘蛛がやってくれるか。ちらりとリンの方を見ると2人がかりで襲い掛かろうとしているがリンの魔法攻撃をよけるのが精いっぱいで攻撃できていない。さすがリンだ。魔法は派手ではないが精緻で徐々に相手を傷つけていく。俺の方にかかってきている奴は切りかかろうとしたところで倒れた。これであと二人。
俺はリンの方に向かい片方の男に切りかかる。
「げほっ」
後ろには目がないからね。あっさり剣のさびとなる。
「くそう、やられるかぁ」
最後の一人は利き腕の肩を魔法でやられて剣を逆の手で持っている。
なんとかリンに近寄ろうとしているがリンが放つ魔法でそばに寄れない。俺はリンの魔法のタイミングを見計らい最後の一人に切りかかり、仕留めた。
黒後家蜘蛛の勇者 山田ジギタリス @x6910bm
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。黒後家蜘蛛の勇者の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます