第7話 勇者登場
商業都市までは案外遠い。ここに来るまでは荷馬車に同乗させてもらえたけれど今度は歩くしかない。人里から離れたあたりでリンがびくっとして俺を木陰に引き込む。
「どうした?」
「来る!」
「だれが?」
「しぃ、黙って」
その頃には俺にも馬が駆ける足音が聞こえた。そのまま通り過ぎるかと思ったら近くなると速度を落とす。俺たちの近くで馬を止めると、三人の騎士のうち一人が騎乗のまま声を掛けてきた。
「リン、探したぞ、そこにいるんだろ。なんで逃げたんだい。レイカも心配しているぞ。さぁ、戻ろう」
「ユウジ!」
リンが叫ぶとともに水魔法を馬に向かって放つ。
バシュ!鈍い音がして水は馬に届かず消える。
「無駄だよ、君の魔法は僕には届かない。怒らないから出ておいで」
そう言われたリンが出ていく。思わず俺も庇うように前に出る。
「おや、まさか男と一緒だったとはね。まさか、リン、君は」
「この男とは何もないわ。私を汚したのはルーズルの代官……」
すると男から怒気が溢れ出す。俺も立っているのがようやくなくらいの圧だ。
「おまえ、お前が付いていながら、よくもリンを!」
「落ち着いて。平民が貴族に勝てると思う?それにあの男は天罰が下ったわ。私の上で死んだの」
「くそぉ、殺してやる、殺してやる、殺してやる」
ユウジから出てくる怒気に俺は立てず膝をつく。
「落ち着いてくださいユウジ様」
ユウジについてきた女騎士がユウジをいさめる。
「まずは国に戻りましょう。いつもでもここにいるとまずいことになりますし、はやく戻らないと姫も心配されていると思いますし」
その声を聞いてようやく少し落ち着いたようだ。
「あぁ、すまなかったアテナ。俺としたことが」
アテナという女騎士に詫びるとリンに向かって言う。
「そうだね国に戻ろうね」
リンにむけた気持ち悪い猫なで声のあと俺の方をみて尊大に言う。
「いろいろ世話になったようだな。それにお前、傭兵か。よし俺の直属部隊に入れてやろう。光栄に思え」
ここで断ることもできるだろうがそれは死につながるだろう。なによりもリンが心配だ。
「さぁ、おいで、僕の馬に一緒に乗ろう」
ユウジが手伝ってリンがユウジの前に乗る。
俺は走って行けと言われるかと思ったらもう一人が載せてくれた。
しばらく行ったところに馬車がまっていて更に二人の騎士がいる。
そのままどうやって国境を超えるのかと思ったらルーズルの街の南の草原に向かう。
そこには魔法陣がありその上に順番に乗ると姿が消えていく。俺もその上に乗ると気持ち悪いゆれのあと見たことのない場所に着いた。
そこでは更に多くの騎士が待っていてそれとは別に白い僧衣を着た女性がいた。
「ユウジ、リン、よかったぁ」
そういう彼女の笑顔がなんか嘘くさい。とくにリンを見る目が憎しみがこもっている気がする。彼女が聖女のレイカ様のようだ。
そのまま王都に向かった。リンは馬車に。俺は馬を支給され馬で。
リンと話ができたのは王都に入ってしばらくしてからだ。
おれは言われた通り勇者直属部隊に配属された。ただし直属と言っても騎士たちの下に着く歩兵で、どうみても肉壁だ。
それでも前よりは扱いがよく王都にいる間は個室ももらえた。個室で寝ていると耳もとに蜘蛛が来た。そういえばこいつ俺に着いたままだったな。
蜘蛛が糸を出すとそれが耳にはりついた。
「聞こえる?」
久しぶりのリンの声だ。
「あぁ、大丈夫か、あいつ、勇者にひどい事されていないか?」
「大丈夫、レイカも姫もいるからうかつなことできないと思う。それより、ごめんね大変なことに巻き込んで」
「まぁ、こればかりはリンのせいじゃないよ」
「聞いて、あと10日で魔王国に出兵する。あなたは勇者直属部隊を外されて魔王国に直接向かう囮部隊に配属される」
あぁ、それって死ねってことね。
「そして私も同じ部隊に配属されるわ」
そこで周りを気にする気配がする。
「私も、姫とレイカからみて邪魔だから囮部隊に配属される。ユウジには安全な場所にいると思わせるみたい。それに獣人国の王女が美人だと吹き込んでるからユウジもそっちに気を取られている」
「にげだせないのか?」
「無理ね、姫の影が付いている、あなたにもね」
「じゃあどうする」
「魔王国に行く前に逃げるか、ごめんなさいあまり思いつかない……、人が来るまたね」
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