第43話/嫌いなら好きになってもらおう作戦

「あ、六花ちゃんだ奇遇だね」


 里寿の噂の情報網から海静希望みしずのぞみ雪落六花ゆきおちろっかの事を聞いた翌日。梅花は購買で六花を見つけると早々にを決行した。


 作戦というのは、嫌いなら好きになってもらおうというもの。


 先日里寿と離れた後、忍の家で話し合い決めた作戦だ。しかし、本来は忍のように嫌いではなく苦手の意識を持つ相手にしか効果はないのだが、梅花は知った事では無いらしい。


「なに? 気安く話しかけないでくれる?」


「わお辛辣。まぁそう言わずにさ。あ、お昼一緒に食べよ?」


「なんで。空木はいつも菊城と一緒に食べてるでしょ。そういう相手もいない私に他人様の甘々なものを見せようとしてる訳? 性格悪」


「いやだなぁ、私が六花ちゃんと一緒に食べたいんだよ。忍くんは今日他の人と食べるって言ってたし……ていうか私と忍くんとで一緒にご飯食べてること知ってるんだ?」


「噂にはなってるもの。というか六花ちゃんとか気安く名前を呼ばないで」


「えーじゃあなんて呼ぼうかな……うーん……ゆーちゃん? ゆろちゃん?」


「センスなさすぎ。雪落でいいでしょ。ていうか本当にウザイから消えてくれる?」


「嫌だね〜。雪落ちゃんと一緒に食べる口になっちゃったし」


「ウザ」


 そう言い放った六花は梅花の顔を殆ど見ず、さっさと2つほどパンを買い歩き始める。


 明らかに避けているのは目に見えており、彼女が梅花の事をよく思っていないと里寿が言っていたのが理解できる。


「待ってよぉ!」


 流石記者を夢見る少女と言うだけはある。そんなことを思いながら、スタスタと歩いていく彼女を見て慌ててパンを買いついて行った。


「本当になんなの? 今まで授業以外殆ど話さなかったくせに、急に友達面してこないでくれる?」


「いやぁ私って人気者だからさ〜。雪落ちゃんと、ちゃんと話ししてみたいな〜って思っても中々ね〜」


「爆ぜろリア充。そして消えて」


「ほんと辛辣だね〜。辛辣というかどくじた?」


毒舌どくぜつ。舌を素直にしたと読む馬鹿っているのね」


「ここにいるんだよなぁそれが。でさ、馬鹿だから直球で聞きたいんだけど。私の事なんで避けてるのかなーって。私としては友達になりたいって思うし」


「馬鹿すぎて反吐が出そう。ていうか避けてるってわかってるならさっさとどこかに行ってくれない?」


「だからその理由をさぁ〜」


 廊下を早足で歩きながらそんなことを話していると突然六花が踵を返し、梅花を突き飛ばす。


 突然の出来事に周囲が凍りつきざわつき始めるが六花には知った事ではなく、尻もちをついた梅花の襟を乱暴に掴み溢れる怒りを瞳に宿す。

 

「一々口に出さないとわからないの?」


「い、言ったでしょ……私馬鹿だからって。私は確かに敵を作っちゃうような性格してるけど、でも何も分からないで避けられたり、嫌われるのは嫌だから!」


 鋭い眼光から放たれる威圧感に身体が竦む梅花だが、彼女の心の意志は強く六花が抱いている自身の印象を聞き出そうと試みる。


「そう、ならハッキリと言ってあげる」


 我慢の限界を迎えた六花は更に目尻を釣り上げて口を開いた。


 その瞬間、六花の後ろから手が伸び彼女の口を抑えられる。当然吐こうとしていた言葉は変に口篭り聞こえることはない。


「ゆ、雪落さん……だめ、だよ……」


「海静……邪魔しないでくれる?」


 六花の口を後ろから塞いだのは海静。理科室でもそうだったが相変わらずオドオドしている雰囲気だ。


 だがそんなにも弱そうな彼女がどうして雪落の口を塞いだのか。


 いじめが起きているのが本当ならば気弱な彼女が雪落を止めることなどできない。止める行為は自身の首を絞めるようなものだからだ。


 いじめを受けていたことがある梅花だからこそ、海静の行動に理解をすることはできない。

    

「邪魔……じゃないよ、その……空木さんは多分、私に用がある……から……えっとその……う、空木さんとりあえず来て……」


「海静、あんた何様? 今まで散々私のやることに口出ししてこなかったくせに、ここに来て正義面しないでくれる? それにこいつは私と話ししてるんだけど」


「じゃ、じゃあその……雪落さんも、来て」


「は? なんで海静に指図されなきゃ行けないわけ? 根暗の分際で……もういい。好きにして」


 一体何が起きているのか整理が全く追いつかないまま、2人の話が終わり雪落は苛立ちを顕にしたままその場から去った。


 少しの間沈黙が周囲を包み込んでいたが、すぐに何事も無かったように賑わい始める。


 座っていても仕方なく立ち上がりスカートについたホコリを手で払うと彼女たちは教室へと歩き始める。追いかけたところで雪落の怒りは沈められず、友人になることもことの真相も聞けないからだ。

 

「えっとその……ごめんね、空木さん」


「い、いや希望ちゃんが謝ることでは……ていうか雪落ちゃんのあの言い方はなかなかだね……」


「いつも……だから……でも本当は優しいんだよ……ただ雪落さんはその、空木さんのこと凄く嫌いみたいで……」


「うん知ってるよ」


「あ、し、知ってたんだね……なのに友達になろうとして……えっとその……なんで……?」


「忍くんの時もそうだったんだけどね。嫌いーとか苦手ーとか言われるとどうしてなのかなって気になるの。それで相手のことをまず理解したくて、私のことも知って欲しくて、なら手っ取り早いのが友達になることかなって。まぁそれで1回嫌な思い出を作っちゃったけどね。でも私こう見えて不器用だしそれくらいしかやり方思いつかないんだー」


「そ……うなんだ……」


「それで、希望ちゃん。私が思うに私を助けたのはなにか理由があるんだよね?」


 教室にたどり着く頃。急に足を止めると、ずっと怯えて下を向いている希望の顔を見て尋ねた。

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空木梅花は今日も嘘を吐く〜Utsugi Umeka lies again today〜 夜色シアン @haru1524

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