第8話 夜道の妖
「はい。次に悪魔についてです。まず前提として悪魔とは元天使、天使が堕天した者たちのことを指します。これは知っていますか?」
「それは流石に知ってる。確か大天使ルシファーが一部の、というかかなりの天使たちを率いて神に叛逆して、それに敗れて堕天したんだろう?」
「そうですね。それが多くの悪魔の成り立ちです。ですが時稀に神が堕ちて悪魔になった例も少なからず存在します。そして悪魔の恐るべき点は心を知る尽くしていることです」
「心を知り尽くしている……?」
「はい。正確には欲望や感情でしょうか。悪魔はどこか暴力的な印象を持つ方が多いですが、それは一側面に過ぎません。中には知略や話術に長けた者もおります」
悪魔とはかつて天使でもあり、神より創られた最高傑作と名高いルシファーもその一人、決して侮ってはいけない相手だ。
「そして最後に神です」
「神…」
天使も悪魔も強敵なのは間違いない。しかしそれすら軽く感じてしまうのが神だ。
「神と言われても様々な神がおります。それこそそれぞれの神話、北欧、ギリシャ、インド、日本など十人十色。例え権能を持つ神であろうと同時に出現するのもおかしくはないのです」
「同じ神が同時にか」
「はい。例えるなら月女神アルテミスと月を司る三貴神ツクヨミが同時に現れるようなことです」
「なるほどな。大体は理解した。だが聞けば聞くほど俺たち人間サイドが不利に感じる」
「それは間違いないでしょう。ですが過去に勝っているのです。何かしら勝てる要素は必ず存在します」
フィーの言う通り、それをこの世界が証明しているならばそれを見つけるべきだ。しかし技量や能力差を考えれば今が一番危険なはず。
「そうだな。だがそれならどうして他の陣営は俺たちを襲ってこないんだ?」
これについては前々から気になっていた。俺が謎の男に襲われてから1週間近くなんの音沙汰がないのはおかしい。
「考えられるとしたら互いに力を溜めているのか、もしくは様子見ですね。私たち人間サイドが弱くとも少なからず力を消費します。その隙を他の陣営に狙われたらもとこもありませんからね」
「意外と絶妙なバランスで成立しているのか…」
それからは今のところ特に聞くこともなかったのでバクバクと肉を食べた。
それから会計を済ませ焼肉店を出た。
「大満足です」
「俺もだ」
「肉でお腹を満たすなどまさに罪ですね」
「ああ……そうだ…ッ」
フィーと話しながら歩いていると誰かとぶつかってしまった。
「すみません……あの…すみま…せん?」
俺は目の前にいた男性に謝ったが謝っても返事がない。
「あの…大丈夫ですか……」
俺は男性の肩に触れようとした時フィーが俺の手を掴んで自分の方に寄せた。
「旦那様、どうやら後手に回ってしまったようです」
「え、それはどういう」
「ああいうことです」
フィーが俺がぶつかってしまった男性を指す。男性がこっちに振り返ると、男性はまるで全身が風呂上りのシワシワの手の状態でそれに更に全身の水分を抜いたようなカラカラな姿だった。
「ちょっ……ッ!?」
「旦那様これを」
俺が驚いて後ずさんでいるとフィーが一刀の刀を俺に手渡してきた。
「斬ってください」
「は、はぁ!?」
そう冷徹に言うフィーの斬ってくださいに隼は動揺を隠せない。握っている刀も振るえている。
だがそれは当たり前のことだ。隼は代表者に選ばれたからと言ってもただ普通の人生を生きてきて20年も経っていない青年だ。しかも相手はかろうじて人の姿を保っているミイラのような者。躊躇うのも無理はない。
「あ"あ"あ"ーーー?」
精気のない瞳をこちらに向けて男はこちらに向かってくる。
「旦那様、どうしたのですか!」
「いや、その……」
「旦那様が躊躇うのも無理はありません。しかしもう彼は死んでいます。彼の瞳を見てください。既に精気もなくただの人形と化したミイラそのものです。ここで彼を斬るのが彼のためでもあるのです」
「だが、それでも……」
「時間がありません!少しずつですかこちらに向かってこの者と同じ反応を持つものたちが近づいています!このままだと袋のネズミとなり死にます!」
フィーは隼の両頬を両手で押さえ自分の目を見つめさせる。
「私の目をよく見てください!私の目と彼の目!」
隼はじっくりとフィーの目を見つめる。
『隼、いい、人生困難や面倒事が当たり前のように降りかかってくるの。それが辛くてもう死にたいとか自分には無理とか思ったら自分の都合のいいように考えなさい。どんな罪も幸福も生きてるからこそわかるの。後悔も反省もその後にたくさんしなさい』
…そうだ。フィーの目はまだ生きている。だがそれに比べてどうだ?あの男の目は何も感じない。既に終幕を迎えた目だ。例え生きていようと今の俺にそれは分からない。今俺がすべきことは生き残ることだ。例えそれが間違っていたとしても今は自分の都合のいいように解釈しろ!
隼はフィーの手の上に自分の手を添えて頬から手を放す。
そして深く息を吸って刀を構える。
刹那、隼の纏う空気が変わった。それにはフィーも気づき驚きた。軽いのに重い。誰も立ち入れないその空気は息を吸うのも忘れる。
「九十九一刀流」
その一刀は風を断ち、肉体は消えた。
「
声が聞こえた時、隼は男の後ろで刀を構え、男の首を切断され地面に落ちた。
「流石です旦那様。しかし早くここから脱出します」
フィーの持つ本が浮かび上がりページがめくられていく。
「幕間の時、我らが生を消したまえ。これよりは我らが語る者ならず!」
本から大量の煙が一帯に広がる。
そして煙が無くなるとそこには誰の姿もなかった。
***
「ざ~んねん。簡単に終わらせそうだからちょっとちょっかい出したのにまさか生き延びるか~~。それに殺したのが使徒じゃないなんて」
紫色の光が照らす、大人の魅惑がむんむんと香る部屋にあるキングサイズのベットに寝転ぶメス餓鬼が先ほどの隼とフィーの映像が映った水晶を前に何か言っていた。
「また面倒なことしてるのバラス?」
「さっちゃんじゃ~ん。なに~もう仕事終わったの~~」
バラスと呼ばれたメス餓鬼はさっちゃんと呼ぶ大人な女性の完成形ともいえる女性を煽るように言った。
「終わったわよ。それよりまさか他の代表者に手を出したりなんてしてないわよね?」
「直接はしてないよ?」
「間接的にはしてるってことじゃない……」
「そうとも言うわね♪」
それを聞いてさっちゃんは頭を悩ます。
「いいわね?私たちの相性的に時間は味方なのよ?絶対にこっちから手を出すのは得策じゃないわよ!」
「なによ~~私だって暇なんだもん!少しぐらい遊んだっていいじゃん!」
「そのせいで私は死にたくないのよ!まったく……それでどうだったのそのお相手は?」
「そうだね。あっちの派閥よりは強そうじゃないけど化ける可能性は無きにしも在らずかな?」
「どっちみち様子見ね。とにかくもう勝手なことはしないこといいわね!!」
「は~~い」
さっちゃんは強めに念押しをするがバラスは拗ねて適当に答える子供のような返答を返した。
八夜の光 鳳隼人 @dusdngd65838
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。八夜の光の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます