第24話 戦場3

「敵将を捕まえたんですか?」


 日の出と共に、昨晩の報告が行われた。

 飛行船は、敵軍の退路に落ちたらしい。燃えだして敵兵を包囲する形になったとのこと。退路を断ったのかな?

 そこまで計算して、墜落させた訳じゃないんだけど……。そもそも、撤退を始めた時は、操作できていたんだし。

 操縦ミスになんだろうな。


 殲滅戦が開始されて、半数が投降したのだとか。

 その中に敵将がいたらしい。

 その敵将に、聞いてみるか。

 繋がれている場所に案内して貰った。


 敵将は、静かに瞑想をしている。外見は、40代かな? それと、古代の鎧を装備している。

 ただし、鉄じゃない。この世界には、アルミニウムよりも軽い金属が存在する。ミスリルとか未知の物質だね。


「あの飛行船を作った技術者は、何処にいますか? 首都にいますか?」


「……飛行船に乗っていたはずだ。流石に死亡していると思う」


 都合が良すぎるな。だけど、試作機であり、その技術者がいなければ飛ばせなかったらしい。

 嬉しい誤算だ。


「飛行船の量産は、行われていますか?」


 敵将が、顔を上げる。


「城を建てられるだけの資金が必要だった。特に水素だ。水素をあれだけ集めるのに、どれだけの資金と労力を必要としたのか分かるか? 今回の失敗もある。二機目の制作は行われないだろう」


 ヘリウムガスじゃなくて、水素ガスを使ったのか。

 ヘリウムの原産地が、この大陸にはないのかもしれない。地球もそうだったけど、この世界も水が多い。それは、水素が多いということだ。分解すれば、生成はできる。

 それと、何処まで文明が進んでいるか興味がわいた。かまをかけてみるか。


「『列車』って言葉は、通じますか?」


 敵将が、青ざめた。


「あっ……ああ。一路線作られているが、あんなモノに利用価値があるのか? 排煙が酷く不評で、飾られるだけになってしまっているのだが?」


 やっべえよ。化石燃料を使い始めたか。

 魔力に置き換わった時点で、世界のパワーバランスが変わるけど、そこまでの技術革新までは辿り着けていなんだろう。

 魔晶石っていうエネルギー源もあるけど、副作用もある。長期的に使うには、まだまだかかりそうだ。

 これは……、技術が止まったと考えてもいいだろう。


 その後、飛行船の墜落現場に向かった。

 件の技術者は、眼鏡をかけていたらしい。遺体は、灰になっているだろうけど、眼鏡は残るだろう。それを目印に探すことにした。

 五人の遺体を発見し、その内の一人が眼鏡っぽいモノを身につけていた。この人っぽいな。


(あなたも、異世界転生・転移の被害者だったのかな……。話してみたかったですよ)


 遺体に手を合わせる。

 その後、遺体を袋に入れて運び出した。

 この世界では、例え敵兵でも死亡したら野ざらしにはしない。土葬か火葬にする。まあ、疫病対策は知られているんだろう。


 投降兵は、精神操作魔法をかけられて一番近い村へ送られることになった。これだけで、逃亡はないんだそうだ。

 怖い魔法だけど、便利だとは思う。

 その後、投降兵に必要な食料を計算して馬車に詰め込んだ。


 途中で、怪我や病気で死亡することはあるだろうけど、餓死はないだろう。この世界では、人道的だな。

 虐殺は……、ないと思いたいな。





 土魔法持ちが、埋葬を短時間で終わらせた。俺は、飛行船の動力部分だけ回収したいと申し出た。俺は今回の功労者であり、飛行船を知る人物でもある。砦の兵士たちは、協力を申し出てくれた。

 金属の塊なので、兵士が総動員して運んでくれるそうだ。

 俺も手伝うと申し出るが、砦で話があるので、任せて欲しいと言われた。


 砦に戻ると、説明を要求された……。


「飛行船の落とし方ですか? 飛行船以上に高度を上げて、ナイフで切り裂いたとしか言えないんですけど……」


「今この国にペガサス以上の高度を出せる方法がないんだが?」


 そう言われてもな……。

 スキルを組み合わせただけだけど、まず理解されない。そもそも、ペガサスがパーティーに入ってくれなければ、実現できない方法だったし。

 さてなんて答えようか。


「俺の噂って聞いてます? バジルさんが少し知っていますけど」


 バジルさんを見るが、口を閉ざしている。寡黙な人だな~。

 だけど、同行していた冒険者がフォローしてくれた。


「帯同させると、冒険者の成功率が格段に上がるサポーターですよ。今回みたいに表立って動くことは少ないですが、王女さまの命令があったんじゃないんですか?」


 間違ってはない……かな。誇張されているけど。


「いや……〈スキル:飛翔〉を持っているのかどうかを知りたい」


「『持ってない』と言います。〈飛翔〉は、『状況によってできる』……が正しい表現ですね。ペガサスをいただければ、何時でも飛べますけど、それじゃあ意味ないですし。何時でもペガサスに乗れるのであれば、〈飛翔〉など必要ないですよね?」


 バジルさんが、口を開いた。


「小鳥でも飼えば、飛べるようになるのか?」


 面白いことを考えるな。

 試したことがないんだけど。ペガサスは、魔力で飛んでんだし。


「翼の力で飛ぶ(揚力)動物は、物理的に無理だと思います。肉体が変化して羽根が生やせれば……、できるのかな? 現実的には、最低でも魔力で飛ぶ動物かな~。翼を持っていなくても飛べる生物が現実的ですね。絶対にできるとは言えませんけど」


 飛ぶことに関しては、あんまり執着していない。

 サポーターとしては、不要なスキルだ。


 『〈スキル:解放リリース〉――MP』は、使えば数日魔法とスキルが使えなくなる。俺の最も苦手とする分野だ。

 ちなみにMID(精神力)の副作用は、一定期間頭痛が続く。今日は短期間だったので、意識を保っていられる程度だ。

 INT(知性)は、一定期間眠りにつく。

 〈スキル:解放リリース〉は……、0か100しかないのが問題だ。肉体にかかる負担も半端ないし。

 ちなみに、パーティーを組んだ状態だと、俺のスキルに〈鑑定〉で見えるスキルの10%程度が付与される程度だ。それだけでも、多大な負担になることが多い。

 それだけ、俺個人のステータスは低いんだ。


 まあ、なんというか、魔法系の副作用は俺にとって安全地帯がある前提でないと使えない。

 まだ肉体系の方が、副作用が楽なのもある。

 〈スキル:解放リリース〉の全開放は……、俺を保護してくれる人がいるのが大前提かな。本当に動けなくなる。


 その後、冒険者は帰ることになった。戦争は……、攻め込んで来た敵国が、ほぼ全滅だから、休戦になるだろうとのこと。まあ、任せよう。

 帰りは、馬車二台を借りられた。

 馬車に乗せて貰い、頭痛解消のために思考を止める。

 だけど、ふと浮かんだ。


(戦場に出て、直接手を下すことがなくて良かったな。まあ、実際は、数人殺していそうだけど。それと、パーティーだ。リナリーさまをパーティーメンバーに加えたままだった)


 パーティーを解散する。

 まあ、道中襲われたら馬車の冒険者とパーティーを組めばいい。守ってくれると信じて、休ませて貰おう。


「それでは、俺は帰りますね」


 バジルさんが答えてくれる。


「うむ。期待以上だった。また会おう」


 また……ね。

 こうして馬車が、動き出した。

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