第23話 戦場2

「思考時間は、明日の明け方までですかね」


「ウォーカー殿は、冒険者と共に砦を離れても良いのだが……。冒険者は、依頼達成で良いのだが、まだ残るつもりか?」


 それだと、この砦が落ちる。

 馬で逃げられそうだけど、背を撃たれるのは避けたいな。

 この国は、この山脈を国境としている。人口が少ないので、未開の土地が広がっているけど、この砦が抜かれたら大きく領土を割かれるだろう。

 まあ、俺の考えることじゃないけどね。

 垂直に立てられた床土を見る。


「そういえば、〈重力制御〉なんてスキルを途中で盗ったな……」


 空力特性を考える。

 丸太の様な矢を発射するんだ。矢を軽くするだけでどこまで飛ぶか……。試射してみるか?


 バジルさんに提案して、試射してみたが、全然届かないことが分かった。

 水平方向なら数百メートルは飛ぶんだし、使い方が間違っているんだと思う。

 ロケットと同じ原理だ。垂直に打ち上げては、重力の影響を100%受けてしまって、燃料を多く消費する。高く遠くに飛ばすなら、運動力学とかを考慮しないといけない。

 そして、目標は3000メートル上空だ。


「これを使うのであれば、山の山頂に設置するのが最善かな……。それでも届くかは微妙だけど」


 今から場所の選定を行って、床土を解体して、運搬する。それから設置か。

 何日かかるか分からないね。


「ウォーカー殿? 考えがあるのか?」


 バジルさんを見る。


「強引な方法であれば、対処法はあります。ですが、戦場を滅茶苦茶にします。そこまでしていいのか、判断しかねるんですよ」


「相手は、飛行船などというオーバーテクノロジーを投入して来たのだ。何を躊躇うのだ?」


 今回は防げるかもしれないけど、後が怖いな。

 飛行船団とか組まれたら、国を蹂躙されるぞ。

 今回の戦争の勝利条件は、異世界人と思われる技術者の確保だな。

 前線に来てくれているのであればいいんだけど。


 俺のスキルでは、そこまでは分からない。

 敵国の将官クラスを捕まえれば、あるいは分かるかもしれないけど。


 考えていると、鬨の声が上がった。

 兵士が慌ただしく動き出す。


「夜襲ですかね?」


 戦術としては、余り上手くない。疲労という面では、敵国兵の方が負担が多いんだし。

 焦っているのかな?


「随分と落ち着いているんだね」


 見た目若いかもしれないですけど、精神年齢は100歳以上なんですよ。

 昔の仲間に〈タイムリープ〉持ちがいて、何回も繰り返した人生を記憶として見せられた。

 その中には、戦場で過ごした経験も含まれているので、俺は状況が読める。この砦は、まだ落ちることはない。


 考えていると、上空に変化があった。

 飛行船が現れたんだ。

 上空から俯瞰ふかんされると面倒だ。


「まあ、仕方ないよね」


 俺はペガサスを探した。陣地内に数頭はいるはずだ。

 馬が繋がれている場所で、数頭見つけることができた。

 俺は、ペガサスに触れて語りかけた。


「俺のパーティーに入ってくれないか?」


「ひひん」


 一回でパーティーに加入してくれた。人に慣れているんだな。

 ペガサスは、鳥類みたいに空気抵抗を利用して飛ぶんじゃないんだな。分類としては、風魔法かな?

 魔力で飛ぶみたいだ。

 まあ、あの翼で馬や鎧を着こんだ騎士の重量を支えられるはずもない。


「〈スキル:解放リリース〉――精神力」


 MIDだけ、底上げする。

 体はまだ本調子じゃないんだ。前回の疲労が残っている。


模倣コピーした〈スキル:飛翔〉を解放、ドラゴンから奪った、〈風魔法〉と〈重力制御〉も起動する」


 準備完了だ。届くかな?

 俺は、最後に短剣を抜いた。


 全てのスキルを一瞬で解放する……。

 俺は……、飛翔した。


「耳が痛いや。キーンって鳴ってる……」


 だけど、それほどのスピードは出なかった。体感的に時速60キロメートルくらいか? これが俺の限界なんだろう。

 飛行船の高度まで、三分くらいはかかりそうだった。

 飛翔中の俺は、無防備だ。だけど、矢が飛んで来ることはなかった。

 飛翔開始から一分ほどは周囲を警戒していたけど、これからは上を警戒するだけでいい。


 だけど、飛行船からも攻撃は来なかった。


「闇夜に紛れているんだろうな。俺の姿を認識しているとは思えない」


 残りの問題は、高度だけだ。

 そう思ったけど、あっさりと飛行船を追い抜いてしまった。

 ついでに、すれ違いざまに、バルーン部分を短剣で切り裂いた。


 飛行船から気体が漏れだす。

 短剣で切り裂いた部分は、亀裂が広がって行き大きな穴となる。

 もう制御不能だね。

 飛行船は自軍に戻ろうとしたけど、どんどん高度を落として行った。そして、墜落だ。

 燃料を大量に詰んでいたのかもしれない。大きな音を立てて爆発したよ。

 それを見た敵軍が撤退を始める。


 俺は、それを上空から俯瞰していた。もう、大丈夫だろう。


「弩や弓矢があっても良かったかもしれない。まあ、覚えておこう」


 俺は高度を落として行った。

 耳が痛いので、塞いでいる。

 それと、酸素が薄くて気絶しそうだった。温度も地上とは違い、とても寒い。


 飛ぶってのも大変なんだな。

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