第22話 戦場1

 その後、数日が経過した。

 何事もなく、馬車は進んだんだ。


 たまに負傷兵と出会うことがあった。

 食事を振る舞って、詳細を聞くが、やはり砦を焼かれているらしい。


「まだ、城壁が壊されていないので耐えられていますが、何時まで持つか……」


 投下型爆弾みたいだな。それと、命中精度が良くないみたいだ。

 初日に城壁を壊してしまえば、制圧兵を送り込んで勝ちだろうに。

 いや……、敵の指揮官の問題かもしれない。

 一方的な虐殺を楽しんでいるのか、政治的なパフォーマンスかは分からないけど。


「砦の指揮官は、優秀そうですね」


「どの辺がだ?」


「負傷兵を逃がしているところですね。砦の陥落を見据えているんでしょう。その後を考えているんだと思います」


 負傷者に戦闘を強いるよりも、後日の決戦に戦力を割いたんだろう。

 指揮官として責任は問われそうだけど、合理的だとは思う。

 敗戦を悟った将としては、優秀かな。


「負傷兵が、王都に着けば、情報も得られますしね」


 航空戦力が、何時まで砦に固執しているのかが不明だ。だけど、その気になれば、王都まで爆撃に行けるだろう。

 問題点があるのであれば、飛行距離かな?

 製造して間もないのかもしれないし。運用方法が確立していない可能性もある。


「対処法を知っていれば、教えて欲しいのだが?」


「ないですよ? 同じモノを作った方が早いです。もしくは、それ以上のモノですね」


 バジルさんは、言葉を失った。

 この人は、軍人なのかな? 輸送長官になるのかな?

 砦に着いた後に、どんな行動に出るのか……。付き合い続けていると、俺も危ないかもしれない。





「あれが、目的地になる」


 山間部……、山の稜線に作られた人工物が見えて来た。砦だな。もしくは、城壁か。

 そして……、上空に飛行船が見えた。幸い一機だけみたいだ。


「爆撃は、されていませんね」


「その様だな」


 弾切れかな? あの飛行船が現れて、結構日数が経っている。それでも、砦は落ちていない。

 爆弾を使い切ったと考えた方がいいだろう。

 そうなると、地上戦が始まっていそうだ。


「……急ごう」


 バジルさんが、そう呟いて馬車が走り出した。



 砦に着くと、戦闘中だった。

 警戒されて、門も開けてくれない。まあ、敵兵が山を迂回して伏せているんだろうな。

 少し待つと、夕暮れとなり戦闘が終わった。

 夜戦はしない世界らしい。


 砦の門が開かれて、馬車が入って行く。

 冒険者たちは、門の前で待機だ。そう思っていたら、敵兵が奇襲を仕掛けて来たよ。

 砦からの弓矢で近づけさせない。

 単騎で抜けて来た相手は、冒険者が対応する。

 俺は、馬車を急がせるだけだ。


 バジルさんが、大立ち回りをしている。

 敵兵が、バタバタと倒れて行った。

 馬車を収容したので、全員で下がると、敵兵も下がった。門を閉じて、任務完了だ。


「今のパーティーレベルは、バジルさんに大きく影響していそうだな。STRとかVITの値は、バジルさんのステータスなのかもしれない」


 俺からすると、ちょっと高すぎる。スキル〈解放リリース〉が上手く働かない可能性もある。

 〈解放リリース〉は、ステータスを暴走させるスキルだ。調整なんてできない。

 そして、最大の問題もある。


「砦の将兵をパーティーに加えた場合、俺のスキルは上手く働かないだろうな」


 数百人のパーティーを束ねる力量が、俺にはない。

 結局のところ、俺はこの場所でスキルを発揮できない……。

 任務が終わったのだから、帰りたいんだけど、今だ許可が下りないんだよな。


「ウォーカー殿。手伝ってくれ」


 バジルさんが、何かを作り始めた。どうやら、馬車の一台に兵器を潜ませていたらしい。他は、食料や武器なんだけどね。

 テキパキと組み上げていく。


「床弩?」


 組み上げてみて驚いた。

 かなり大きい弩だ。

 しかもそれを垂直に打ち上げるように設置したよ……。


「もしかして、飛行船を撃ち落すつもりですか?」


「リナリーさまが言うには、届くとのことだ。ウォーカー殿としては、どう使うと思う?」


 飛行船は、上空3000メートルくらいだと思う。周囲の一番高い山の少し上空を旋回している。


「無理じゃないですかね? 飛んで数百メートルでしょうし」


「そうか……。使い方は皆で考えて欲しいとのことだったんだが」


 この床弩を使用して、勝てるかもしれないってこと?

 違うな。未来視の言葉を取り違えていると思う。

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