第21話 輸送5

 とりあえず、河原に移動することになった。

 俺は、女性冒険者の魔導師に肩を貸して貰ってだけど。まだ歩けないんだ。

 そして、河原に着いて驚いてしまった。


「負傷者が、多数なんですね。もしかして、全員?」


「前線で戦えないと判断された者たちだね。瀕死の重傷から回復したから、後方に移動なのかな?」


 魔法のある世界でも、肉体の損傷は、簡単には癒せない。

 高価な薬品もあるんだけどね。そうそう出回らないらしい。

 軍隊レベルで使うモノじゃないし。

 だけど、不思議に思う。


(休戦状態だったはずだ。タイミング良く出会ったにしては、不自然だよな。前回のリナリーさまの時もそうだ。わざわざ敵が伏せていた間道に向かったんだし……)


「もしかして、負けている?」


 俺の独り言に、兵士が反応した。


「戦端が開かれただけだ。負けてはいない!」


 どう見ても、敗残兵なんだけどな。


「陣地というか、砦は落とされていないのですよね?」


「……まだ、無事なはずだ」


 『まだ』と言う言葉が引っ掛かった。現地でなにが起きているのかが不明だ。

 これには、バジルさんが協力してくれた。戦場の詳細を聞き出してくれたんだ。


「空飛ぶ船? 上空から爆弾かな?」


 この世界は、飛行技術が未発達だと思った。

 唯一、ペガサスみたいな飛翔怪物モンスターを使役した飛行方法だけは知ってんだけど。


「話を聞く限り、気球か飛行船だな」


 多分だけど、ペガサスとは高度が違う。一方的に蹂躙されていそうだ。


「貴殿は、異世界人なのか? 詳細が分かるのか?」


「作れませんけどね。知識はあります。一方的な攻撃を受けているんでしょうね。ペガサス隊を戦地に向かわすのもお勧めしません。多分、罠があるだろうし」


 この国のペガサスは、とっても貴重だ。王家が管理しているくらいだし。

 今回の敗戦は、ペガサスの独占が招いた結果なのかもしれない。


「バジルさん、どうします? このまま行くと、物資を焼かれそうですけど」


「我々に撤退はない。目的地となる砦に行かないという選択肢はないんだよ」


 俺のスキルの危険度は、まだ21%だ。

 何とかなるかな?





 朝起きると、騒がしかった。


「とりあえず、歩けるまでは回復したかな?」


 体中の骨をポキポキ鳴らして、ストレッチを行う。

 そうすると、女性冒険者の魔導師が寄って来た。


「おはようございます」


「おはよう。ちょっと困ったことが起きてるの。一緒に来て!」


 手を引かれて連れて行かれた。これは、逃げらんないな。



「馬車を一台盗まれたと?」


「うむ……。荷物を半分捨てて、奪われたみたいだ。逃亡者は、怪我した兵士10人だな」


「冒険者は? 全員いますか?」


「冒険者は問題ない。今は、逃亡した者の身元を洗っている」


 詳細を聞くと、足を怪我していた兵士が、共謀して馬車を盗んだと分かった。

 杖をついて歩くよりも、多少刑罰を負っても生き延びる選択をしたんだろうな。

 さて、どうするか……。


「追いかけて捕まえます? 俺のスキルなら、あるいは追跡できますけど」


 彼等の隊長は、まだこのキャンプ地にいる。その隊長とパーティーを組めれば、俺は追跡サーチできる。まあ、彼等がまだ自分たちを『兵士』だと認識している必要があるけど。

 バジルさんが考え出した。


「いや……。我々は、荷物を拾って目的地まで行こう。待っているはずだ」



 朝食を食べつつ、事の顛末を聞いた。

 どうやら、スキルを使われたらしい。火の番をしていた冒険者も気がつかなかったらしいし。〈消音〉かな?

 時に便利だよね。


 話し合いの結果、捨てられていた荷物を兵士が使うことで合意した。

 このキャンプ地でもう少し回復させるのだとか。


(それくらい、最前線には居たくなかったってことだよな。無理してでも、移動したかったと)


 危険度は、21%のままだ。

 馬車の盗難は、問題じゃないんだ。他に何かありそうだな。


「リナリーさまから、何か言われていますか?」


「いや……。何もないが?」


 〈未来視〉持ちの言動は、不明点が多い。

 それに、ただ荷物を運ぶのに、俺を指名依頼する理由もないはずだ。


 最悪、戦争への加担か……。

 試されているのかな?

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