第20話 輸送4

 ドラゴンは、バジルさんが、マジックアイテムの〈空間収納〉を持っていたので解体せずに済んだ。

 すっごい高価なアイテムになるんだけど、王族の護衛は違うんだな。

 これで、かなりの時短になった。

 俺は、デバフ効果というか、筋肉痛で体中が痛い。

 馬車の御者台で休ませて貰うことになった。


「どれくらいで回復するのかな?」


 護衛の冒険者が、聞いて来た。


「全快までには、数日かかると思います。まあ、明日には馬に乗れる程度まで回復すると思います。今日だけ、馬車に乗せてください」


 今のところ、道案内は必要ない。

 地面に道ができているし。轍かな。

 戦場となっている砦までの物資運搬に使われている道に辿り着いたみたいだ。

 このまま一直線に行ければいいんだけど、途中に分かれ道もあるんだよな。そこまでは、休ませて貰おう。


「ねえ、この任務が終わったら、私たちと組まない?」


「あ! 抜け駆け! こういうのは、ちょっとずつ仲良くなってから誘うモノよ!」


「ストレートに言いたい訳よ。回りくどいことは嫌いなの」


 今俺の左右には、女性の冒険者がいる。魔導師系で、露出が多いんだけど。動けないのに、距離を詰められて困っている。

 異世界に来てから、俺は……何故かモテる。自分自身を鑑定できないのでスキルなのかは分からない。

 昔、鑑定士に見て貰ったが、そんなスキルはないと言われた。だけど、異常なほど女性が言い寄って来る。

 単独ソロでいたい俺には、頭痛の種だ。


(元の世界に帰りたい俺は、女性関係をクリーンにしたいんだよな)


 リナリーさまの件もある。

 今回の輸送任務が終わったら、移住するか。

 余りに、名を売り過ぎた。

 そんな俺の様子を、バジルさんが冷めた目で見ているのが、とても痛い。リナリーさまにどんな報告をされるのか。



 その後、数度の怪物モンスターによる襲撃があった。

 冒険者たちが対応してくれたので、特に問題はなかったけど。

 変化があったとすれば……。


「この人型の怪物モンスター……。装備が凄くいいぞ。貴金属が多く使われているし」

「アンデッドだったからな。昔の貴族だったのかもしれないな」


 武器防具を、冒険者たちが剥ぎ取っている。

 さっき、ドラゴンから奪った、〈スキル:レアアイテム入手確率UP〉の効果なのかもしれない。

 これは、俺自身にスキルを移してもいいかもしれないな。

 一度スキルを選ぶと、取捨選択ができないので、消すことができない。枠に限りもあるしね。

 慎重に選んでいるんだけど、なかなか決まらないのもある。


 俺のスキル……。使い勝手が悪いので、昔の仲間が調整のために指輪を用意してくれた結果だ。

 このおかげで、俺は2度目の異世界でも、単独ソロ生きて行けている。


(1.確率による未来予知

 2.一度でも組んだことのある人物のサーチ能力

 3.パーティーレベルによる数値化、敵対する魔物のレベルの数値化

 4.バフ・デバフ魔法の学習ラーニング

 5.専用の指輪による強奪ロブ

 6,解放リリース

 スキルは補助系が多過ぎて、〈解放リリース〉は使い勝手が悪い。後どれくらいこんな生活が続くのやら……)


 ちなみに〈必中〉は、確定させていない。怪物モンスターをパーティーに誘う時に発現しなかったからだ。だけど何故か魔法では、発現したりしている。

 もうちょっと検証が必要との判断だ。〈必中〉の能力を持った指輪は、左指に常に嵌めているけど、決心がつかなかった。


 左右から、女性の胸に挟まれた状態でため息を吐くと、叱られてしまった。

 スキルには、〈女難〉ってあるのかな? 〈未来視〉で出てたんだけど……。

 もうちょっと、スキルの考察を続けよう。女性の胸に挟まれていても、俺は思考を止めることはなかった。枯れているっちゃ、枯れているな。


 最重要機密が、バフ・デバフ魔法だ。種類を全て把握された時点で終わる。十数種類あるので、奥の手もあるけど。まあ、メインで使う魔法と、追い詰められた時に使う魔法に分けているので、今のところ把握されてはいないと思う。

 一度、俺の最強魔法を使ったことがあるけど、それは味方が全員死亡した時だった。


(全スキルの同時起動……。発動後は、動けなくなることも考慮した魔法だったけど、二度と撃たないことを願いたいな)





 陽が暮れたので、野営の予定時間が来た。

 だけど、川までまだ距離があった。予定の野営地までは辿り着けなかったんだ。


「川まで行くか、水を汲んで来るかですね……」


 予定的に少し遅れている。

 ちょいちょい、魔物の襲撃があるからだろうけど。


「盗賊は、いると思うかい?」


 いるとも、いないとも言えないな。危険度は8%のままだし。

 全員で話し合った結果、足元を松明の明かりで照らして、川まで進むことになった。

 馬の速度を落としながら進む。


(こんな、一面の平原で松明に火をつけるのは、目立つんだよな……)


 〈スキル:暗視〉を持つ盗賊がいれば、格好の的だ。

 だけど、野営場所は決まっている。

 そう……、決まっていた。



「先客がいるようだね」


 そこまでは、考えていなかった。

 まあ、河原は広い。轍から少しズレた所に馬車を停めれば、事故も起こらないだろう。

 問題は、先客がどんな人たちなのかだ。


「俺が見てこよう」


 バジルさんが、先行して挨拶に行ってくれた。

 護衛の冒険者は、剣を鞘から抜かないけど臨戦態勢だ。


「そもそも、こんな何もない場所で野営している人って、どんな職業ですかね?」


「良くて戦場帰りの商人。悪くて盗賊ね」


 隣に座っている、魔導師が答えてくれる。


「俺は動けないので、最悪捨てて行ってください」


「「それはないかな」」


 話していると、バジルさんが戻って来た。


「負傷した帰還兵だった。王都に帰る途中らしい。悪いが、全員で食事の用意と怪我人の手当てをして貰いたい。馬車の物資も使って、救援を頼みたい。報酬は弾もう」


 ――ピピ


 ここで俺のスキルが働いた。


『危険度21%』


 危険度が、8%から21%に変化した。

 何かが紛れているのか、遠くから観察されているのか……。

 体を動かせない、俺ができることを考えないとな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る