ロボゲーがサ終したと思ったらいつの間にか異世界に来た件

槍騎兵くん

第1話 サービス終了の日

 フルダイブ技術が発達し、多くのVRMMOが誕生した。

その中でも〈バトル・オブ・メタル〉BoMは特に人気なゲームだった。


 プレイヤーは人型兵器

〈mechanical armored combat weapons〉、通称MAに乗る一人の傭兵だ。


 MAは頭、胴体、腕、脚の四つのパーツ構成されており、どの部位もパーツが豊富なため、狙って組まない限り、同じコンセプトでも全く同じ機体を作るのはほぼ不可能と言っても過言では無いだろう。


 さらに、クリエイト機能により、金と素材さえあれば完全オリジナルの武器や機体パーツ、果てはNPCを作ることだって可能である。莫大な時間と費用がかかるがMAの全パーツと武器を一から作って、専用機を作ることもできる。


 このクリエイト機能は〈BoM〉の人気に拍車を掛け、多くの人々を魅了した。


 マップは広く、全長約10メートルのMAが飛び回っても他のMAに合わないことがよくある。建造物はとにかくデカく、MAから降りて眺めるビルや基地は圧巻の大きさだ。


 戦いに明け暮れても良し、素材を集めまくってクリエイト機能を楽しむも良し。

 戦闘以外にも楽しみがあるというのはそれまでのVRMMOにない大きな特徴だった。


 ロボゲーという多少マイナー寄りのジャンルながらVRMMOの中でも圧倒的な人気を誇った〈BoM〉はまさに神ゲーだろう。


 だが、それも過去の話だった。


 慣れがいるフルダイブ状態の中でのMAの操縦は難しく、流行りが過ぎると新規プレイヤーの数は大きく減った。

 

 運営も新規プレイヤーを獲得するため色々取り組んだが、それでも過疎化は止まらず、ついにサービス終了が決定した。


 「はぁ、サ終まであと一時間……」


 そんな〈BoM〉の世界で溜息をつく少女――〝ライカ〟は拠点〈アイウォール〉の地下を歩く。


 アイウォール。

 クラン〈テンペスト〉の拠点であり、ミサイルなどの防衛設備で要塞化された地上部分に加え、ジャマーなどのトラップと複雑な構造で敵を惑わせる地下部分の二層に分かれた堅牢な拠点である。


 ライカは歩きながら今日までの日々を振り返る。 


 このゲームを始めて三年程経ったが、それまでほとんどを毎日ログインしてはMAに乗って戦いまくっていた。


 はじめは機体の操作に慣れず、撃墜されまくっていたが、上達していくと他のプレイヤーとの交流も増え、仲間と呼べるプレイヤーもできた。

 そして仲間とともにライカがクランリーダーとなってクラン〈テンペスト〉を立ち上げ、かつては〈テンペスト〉が世界最強のクランとして名を轟かせたこともあった。


 だが、そのメンバーも今は全員いない。理由は色々あったが一番はこのゲームの人口が減っていたことが大きいだろう。


 「はぁ…」


 過去との差に絶望したライカは再度深い溜息をつく。

 そうして溜息を何度かつきながら歩き、目的地である格納庫へ着く。


 室内に入り、ライカは階段を上って格納庫を見渡す。


 地下とは思えないほどの広々とした空間の中には七機のMAがあった。格納庫自体は十機入る設計だが七機しかいないのは単純にMAを操縦する者が〈テンペスト〉には七人しかいないだけだ。


 「みんな売ってもいいなんて言ってたけど……流石に売れないよねぇ」


 ライカは簡素な手すりにもたれかかりながらそうつぶやく。


 どの機体にも大切な思い出があるライカは全ての機体を売らずに保管していた。


 彼女の中にはもしかしたら誰か戻ってきてくれるかもしれないという淡い期待もあったが、結局サービス終了の日になっても誰も来ることはなかった。


 MAの胴体程の高さに合わせられた鉄製の通路を歩き、格納庫の一番奥にある愛機〈ファルコン〉に近づく。


 〈ファルコン〉はライカ達が一から作ったオリジナルの機体であり、彼女の専用機である。


 このままずっと眺めていたいがもうあまり時間も無い。


 ライカは機体に乗り込みたくなる衝動を抑え、格納庫から出ようとする。

 その時、格納庫の出口付近に立つ三人の少女に目が止まる。


 ライカと同じ銀髪に鮮やかな赤い目という特徴を持っているが、ライカよりも少し顔が幼い。

 三人とも顔は良く似ているが全員違う色で髪を一部染めている。

 165センチあるライカに比べると身長は低く、155センチ程度だろう。 


 三人は姉妹という設定であり、ライカ自身が作った戦闘用のNPCだ。

 姉妹達はMAに乗って戦うこともできるが襲撃してきたプレイヤーはライカ達で全て撃退していったせいで結局日の目を見ることはなかった。


 三人のNPCと四人のプレイヤー。それが〈テンペスト〉の戦闘メンバーだった。


 自分が作ったNPCということもあり、ライカにとっては思い入れがあった。


 姉妹達は自分達より身長の高いライカをじっと見つめる。


 「えーっと確か…追従、だったかしら?」


 命令を受けた姉妹達はライカの後ろに並ぶ。


 コマンドが合っていたことにライカは胸を撫で下ろしつつ、格納庫を出る。


 格納庫から少し歩き、階段を下りた先には鉄製の扉があった。


 〈アイウォール〉地下最深部。

 ライカ達が作戦司令室と呼んでいたその部屋は〈テンペスト〉のメンバーが作戦会議をする時の集合場所だった。


 ライカは扉を開ける。

 部屋の真ん中には円形の机と四人分の椅子がある。

 奥の壁一面に並べられたモニターは外の様子を映すことができるが、今は何も表示されていない。


 部屋の奥側の椅子、その近くに一人の少女が立っていた。

 燃え盛る炎のような真っ赤な髪を持ち、頭から狐の耳が生えている顔立ちの整った美女だ。


 近づいて彼女の服装を眺める。

 白を基調としたメイド服は細かいところまで装飾が入っており、作った人のこだわりを感じさせる。

 腰のあたりにはモフモフの尻尾が生えていた。


 ライカがまじまじと見ても彼女に反応は無い。無表情のまま透き通った緑の目でライカを見つめ返すだけだ。


 ライカは少女のステータスを確認する。


 「確か名前は……ああ、ホムラね」


 ホムラは〈アイウォール〉の全システムを管理する超知性を持ったAIという設定のNPCだ。


 ライカは彼女の姿を見て、彼女を作り出した時――〈テンペスト〉の全盛期を思い出す。


 素材を集めるため戦い、デザインを決めるためメンバー全員で話し合い、こだわれる所はとにかくこだわった。

 あまりにもこだわったせいで何度も素材と資金が底を尽き、そのたびに全員でMAに乗って戦い、素材を集めた。

 恐らく、姉妹達全員にかかった費用と素材の量を合計しても足りないレベルだろう。


 そうしてできた彼女はこのクランの象徴のような存在だった。


 ステータスの下にある長いフレーバーテキストも読みたいがそこまで時間は残っていない。


 「待機」


 ライカは姉妹達に命令し、入口付近で待機させる。


 ライカは円形の机の一番奥にある椅子に座る。作戦会議の時、彼女がいつも座る場所だ。


 椅子の隣にホムラを立たせ、ライカはメニューを開いて時間を確認する。


 「はぁ…後一分でサ終ね…」


 〈BoM〉のサービス終了は0:00ちょうどだ。


 ライカは何度目わからない溜息を再度つく。


 クランリーダーとしてメンバーが引退していった後でも攻め込んできた敵を迎えるため、ライカは毎日ログインしていた。人口の減ったこのゲームにわざわざ拠点を攻めるプレイヤーはいないとわかっていてもだ。案の定、プレイヤーは一人も来ることはなかった。


 どんなものもいつかは終わる。


 ライカは自分にそう言い聞かせつつ、メニューから見える時間が残り五秒になったのを見て目を閉じる。


56、57、58、59…


 後一秒でサーバーが強制シャットダウンし、意識が現実に――


0……1、2、3


 「…あれ?」

 

 ライカは違和感を覚えた。頭の中で確実に五秒数えたはずなのに、ログアウトするとき特有の意識が遠のく感覚がやってこないからだ。


 ライカが目を開けるとそこは自分の部屋ではなく、〈BoM〉の世界にいた。


 「サーバーダウンの延期?」


 もし運営にトラブルが起きてサーバーダウンが出来なくなったとしたら、何かしらのお知らせが運営から来ているはずだ。

 お知らせを確認するためライカはメニューを開こうして手が止まる。


 「あれ?メニューが開けない⁉」


 メニューが開けなければお知らせの確認はもちろん、手動でログアウトすることも不可能だ。


 「運営にチャットもできない。何が起きてるの…」


 ライカは途方に暮れる。それは本来ならただの独り言になるはずだった。そう、本来なら。


 「どうされましたか。マスター」


 突然声がかかる。

 ライカが振り返ると先程まで扉の方を見つめていたホムラがこちらを覗き込んでいた。


 

 

 


 


 


 


 


 



 

 


 



 


 


 


 


 

 


 


 


 

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