07.貴方の腕の中で2

 突然のことに抜けた力がまた戻る。彼の背中に回した手が驚きに爪を立てたというのにアーフェンは気にすることなく奥に逃げた真柴の舌の先を舐めてきた。


(これが……キス……)


 概念でしか知らない深い口付けに、どうしていいかわからなくてパニックになれば、アーフェンが巧みに刺激してきた。

 舌の表面を尖った先で舐められただけでジンッと甘い痺れがそこに走る。


(なんだ、これは……だめだっ変な音が出るっ!)


 勝手に上がろうとする甘い鼻音を、真柴は止めることができなかった。

 舌を刺激されるたびに感じる痺れと一緒に「んっんっ」と音を立てれば促されるようにアーフェンの動きが大胆になる。舌を絡め擦り合わせては、先程までくすぐったさしか感じなかった胸の飾りを指の腹で転がし始める。


 舌を刺激されて生まれる痺れが一層強くなり、真柴は堪えようと更に強くアーフェンの背中に爪を立てる。

 そうしなければ痺れるたびに膨れ上がる下肢の熱をどうすることもできない。

 三十七年も生きて初めて味わう言い様のない感覚に、ただ翻弄されていく。

 言うことを聞かない場所が膨れ上がっていくのを止められない。


 なのに……やめたくなかった。

 もっともっと味わいたくて少しだけ舌を伸ばせば、巧みな舌の動きは激しくなり味蕾を擽るように前後してきた。


 ――甘い。


 流れ込んでくる彼の唾液がこんなにも甘いなんて、知らなかった。

 舌が触れ合うのがこんなにも官能を引きずり出すなんて、知らなかった。

 重なる体温がこんなにも心地よくて自分を失うなんて……本当に自分はなにも知らないんだと突きつけられると同時に、初めて知ったすべてをもっと欲した。


 捏ねられる胸から湧きあがってくるのがこそばゆさから別のものへと変わっていく。自然と下肢に力が入りじっとしてられなくなる。くねらせれば膨らんだ部分がアーフェンの膨らみにぶつかった。


「ん!」


 信じられなかった。彼のそこも硬くなっている。いや、先程の切迫した表情でそうなのではと想像したが、こんなにも張り詰めているなんて思わなかったのだ。

 肉欲を感じるにはあまりにも貧相な真柴だ、女性のような堪能さもなければ年のせいで触れて心地よい張りのある肌でもない。同時に初心者の真柴が彼を煽れるテクニックもないとなったら……。


 同じなのだ。

 アーフェンも本当に心から自分を好いてくれている。

 先程の叫びが蘇った。


『お前を愛しているんだ……』


 あれは彼の本心だったんだ。絞り出すような逼迫した声が、心が、また真柴を震わせた。もう寒さのせいなんかじゃない。誰かに想われることの悦びが疲弊してしまった真柴の心を一気に潤して揺さぶってくる。


 荒波のように。


 彼の想いに応えたい。自分も好きなんだと伝えたい。言葉だけでなく、自分のすべてで。

 真柴はほんの少しだけ勇気を出して自分からも舌を絡ませてみた。アーフェンがしたように。ビクリと大きな身体が震え、アーフェンが離れた。


(嫌……だったのだろうか)


 怯えを含んで見上げれば映るのは真剣な表情の愛おしい人の顔と獣にも似た貪婪さを湛えた瞳だった。


 ――食われる。


 そう思った瞬間、唇がぶつかり舌が深くまで潜り込んでくる。今まで激しいと思っていた動きがまだ可愛いものだったと感じるほどに舌が絡まり、貪られていく。唾液と共に舌を吸い上げられアーフェンの口内へと入れば、甘噛みされたまま先を擽られ始めた。


「んんっん!」


 舌を舐められた時とは比べものにならないくらいの強い痺れに、本能的に逃げようとする身体を強く抱き締められる。それでも、真柴に気遣ってアーフェンが身体を入れ替えた。逃げられないように片腕で抱き留められ、大きな掌が真柴の後頭部を押さえつける。


 先程までがどれだけ手加減してくれていたかを理解して、余裕なく貪られるのが嬉しい。この人は本当に自分を愛してくれているんだと感じられるのが、こんなにも幸せなことだなんて想像もしなかった。

 貪るような口付けに真柴も次第に応えていく。自分から舌を伸ばし贄のように捧げていく。すべてを奪い尽くすような口付けから解放される頃には、息が上がりどこにも力が入らなくなる。それでも小休憩にも満たない、息すら整えられない合間に囁かれた。


「真柴、愛しているんだ」


 また、胸が満たされ……痛んだ。

 想いを言葉にする代わりに自分から肉厚の唇に押し充て舌を潜り込ませる。


(僕も好きです……貴方だけを……)


 自分から舌を絡め、想いを告げていく。アーフェンもすぐに応えてくれ、また深く激しい口付けに溺れていく。

 けれど、それだけではなかった。

 アーフェンを跨いで重なった真柴の身体を揺らし始めたのだ、大きな腕と逞しい腰が。

 二人の隆起した昂ぶりが布越しに擦れ合う。


(だめっ……やめてくれ)


 逃げようとする頭を押さえつけられては真柴にはどうすることもできない。

 真柴も猛っているのに気付かれていたのかと驚き、深い口付けの刺激と下肢への刺激にただただ翻弄されていく。腿に力を入れて堪えようとするが、もう何年も自分で触れることのなくなった場所は久しぶりに味わう愉悦にすぐさまのめり込んでしまう。


(もう……だめだっ)


 口付けを外し訴えようにも、大きな手が阻んでくる。

 自分はこのまま彼に食われてしまうのか……一瞬の恐怖の後に生まれたのは恍惚とした感情だった。

 逃げられないようにするほど求められている。

 愛されている。


 その激しさにただ翻弄されるしかない自分が不甲斐なくて、けれど本能がやめて欲しがっている。このまま下着に出してしまうのが恥ずかしい。

 もう放してくれ、これ以上は辱めないでくれ。握った拳で彼の肩を叩いても、真柴の力では魔獣と対峙してきたアーフェンにとって児戯の戯れに過ぎないだろう。叩けばそれだけ揺れが激しくなり、追い上げられる。


 舌の動きも激しく、吸ったまま歯列でグニグニと舌を甘く噛まれ先を舐め続けられる。逃げられないまま、その瞬間は来た。

 ビクリと身体を強張らせ、咄嗟に掴んだアーフェンの肩を強い力で握り込む。柔らかかった舌も硬くしたまま、腰だけが自ら何度も彼の身体を突き上げてから弛緩した。


「達ったのか」


 解放された唇は荒い息を紡ぎ応えられないが、潤んだ目で見たアーフェンは嬉しそうに笑っている。

 弛緩した真柴の身体をベッドに戻し、容赦なく下肢に纏っていたすべてを剥ぎ取ろうとした。


「や……めて、くださいっ!」

「見せろ。俺に感じて達ったのを隠すな」

「だめっ!」


 達ったばかりでどこにも力が入らない真柴から悠々と残りの服を抜き取られた。

 大きく足を開かれ、汚れた下肢が彼の目に映される。蝋燭だけが灯っている部屋では光量が少ない分、蛍光灯の下と比べればはっきりとはしなくても、それでも恥ずかしい。しかも自分だけが達ってしまったのがみっともなくて、真柴は身体を丸めようとするが、大きな手はいとも容易くそれを阻んだ。


「隠さないでくれ。お前も俺を想ってくれたのを確かめさせてくれ」

「あ……」


 ずるい人だ。そう言われてしまえば拒む理由が弱くなってしまう。そして自分がなにをしても良いと言った手前、これ以上の抵抗ができなくなってしまうのだ。

 あの時は知らなかったのだ、こんなにも恥ずかしいことなんだって。





★以降はR15を超えますので皆様の心のなかでご想像ください★

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