通知音

私、今日残業なの？

　夏の連休前の最終日。多くの同僚が早々と帰ったのに、女性の私Ａだけが夜9時までの残業なんて……　

　私に居残りを指示した課長自身は窓際でヘッドセットをつけて外を見ている。大体この女好きのキモイ男性課長と二人で残業すること自体が夏のホラーだ。

（ヘッドセットから音楽が漏れて聞こえてるよ、仕事中に何聴いてるんだ……エロおやじめ）

　夜8時、ビルはひっそりしてきた。課長が私に変な気を起こさないか心配になってきた。（それとも化け物に変身したりして……）いかんいかん、アニメの見すぎだ。

（私も何かやろーっと……）

　私は、怖さから気を紛らわせるために、自席でこっそりカクヨムのDiscordを開いた。いつもこの時間は、仲の良い女性作家さん数名とプチ女子会をしているのだ。

『こんばんは！　遅れてごめん、今日はまだ職場なの。レス遅くなるかも……』なんて打ち始める。すぐにＢさんが反応する。

『Ａさん、こんばんは！　今日はＣちゃんが来てないの』　

　一番仲のいいＣちゃんが現れない……　Ｃちゃんは昨日「コロナかも」って書いてたから、症状が出ちゃったのかな？　今日はとことんついてない。

　Ｃちゃんとはフレンド登録しているからDMを出してみることにした。

　そして……

　まさかこのタイミングで恐怖が来るとは思っていなかった。DMを出した瞬間……

　<<　ピポ　>>　

　課長のスマホの通知が鳴った……

　は？　課長のスマホがなぜ？？　そう言えばさっきスマホを少しいじっていた。

「噓でしょ……」

　私は血の気が引いた。これは偶然だ。あり得ない。

　でもあの通知音は良く聞くやつだし、どうしよう……

　私は震えた指で、もう1文字打って送信した。確かめるために。

　<<　ピポ　>>　

　今度もぴったり同期した。何てことだ。

「はい、そうでしたか……　あなたがCちゃんでしたか……」

　私はそーっとDiscordから退席し、仕事を終わらせた。

　それにしても、まさかＣちゃんの正体がうちのエロ課長だったとは……

　私がしばらく人間不信になったことは言うまでもない。

　（終わり）