理寛寺の説明
「……………………」
「……………………」
……あれから約数十分後、理寛寺の話を聞き終えた私はテーブルに突っ伏して屍になっていた。
私たちの間にはまさにこの世の終わりだった入店直後よりもさらに絶望的な程重い空気が流れている。
「…………あの……」
「いい、もういいから早く私を殺して…………」
「生きてください…………」
……なんて投げやりなツッコミなんだ。今私がどんな気持ちでいるかお前にわかるか?まずお前を殺してから死ぬことにしようか。
……本当に、冗談抜きで死にたい。というか誰か殺してほしい、出来れば即死で。トラックに轢かれて一瞬で逝きたい。
……これからの長い人生を、こんな濃い汚点を残したまま生きていける気がしない。
聞くべきではなかったし、途中で目の前の男の息の根を止めて逃げるべきだったと深く後悔しているが、とりあえず私の最新にして最大の黒歴史を発表しようと思います。
理寛寺の説明を簡潔にまとめるとこう。
放課後、野暮用を終えた後、ちょっとした出来心で学校探検をしようと思い、校内を探索。
→屋上(施錠されていて空くことはない。屋上が開放されているのは漫画やアニメの世界だけだ) へと続く階段を登っていると、一番上で人が倒れていることに気づく。
→引き返そうとしたが、微かにうめき声のようなものが聞こえ、四分の好奇心に負けて上へ上がってしまう。
→そこには、天井を焦点の定まっていない虚ろな目で見上げ、ぶつぶつとお経のようなものを唱えながら床に直で仰向けで倒れているヤバい女(=私)がいた。
→見てはいけないものを見た気がして(正解)今度こそ引き返そうとしたが、ヤバい女に呼び止められる。
→足を止める、ヤバい女が立ち上がる、ヤバい女が追いかけてくる、逃げる、ヤバい女に追いつかれ学ランの裾を引っ張られる、ヤバい女が耳元で「……たすけて」
理寛寺(苦虫を噛み潰したような顔で)「……完全にホラゲーでしたよ……」
私「………………」←顔面蒼白思考停止
→声にならない悲鳴を上げ、ヤバい女を振り切って全力疾走で逃げる。
→下駄箱まで辿り着き、靴を履き替えようとしたところで、さっきのヤバい女がどうなったかが気になり出す。
→数分悩んだ後、引き返して先程の場所に戻ろうとする。
理寛寺(心の底から悔しそうな表情で)「今思うと、完全に選択肢間違えました。…………こんなクソみたいなことしなければそこで終われたのに…………」
私「………………」←顔面蒼白思考停止
→まずは心を落ち着かせようとお茶を買いに自販機へ行くが、運のいい(悪い?)ことにヤバい女は既にそこにいた(体育座り)。
→物凄い視線を感じながら、圧倒的気まずさの中お茶を買う。
→ふと目をヤバい女に向けると、思い切り目が合う、固まり動けなくなる、先に逸らしたほうが負けみたいな感じになる、ヤバい女の視線は合うんだけど目の焦点がおかしい不気味すぎる視線に耐えきれず逸らす、戦いが終わってもヤバい女から続く眼力攻撃にさらに耐えきれず「……あの、大丈夫ですか……?」と声を掛ける。
理寛寺(もはや諦めの顔で)「……ほんと、何やってるんすかね自分……でもあのまま放っておいたら何が起こるかわかったもんじゃなかったから……」
私(以下略)
→ヤバい女(今にも吐きそうなくらい青白い顔で)「……う、だぁいじょぅぶ……でもおかしがだべたい…………」「…………(何言ってんだコイツ)」(世界一萌えない上目遣いをしながら)「…………こんびにぃ……つれてって…………」「…………(一人で行けよカス女)」(立ち上がりながら)「……いくわよ」
→何故か連れられる形で学校近くのロー〇ンへ一緒に行くことになる。
理寛寺(殺気)「……あそこまで人を殺したくなったのは初めてでしたよ……もはや人じゃなかったけど」
私(以下略)
→移動する最中会話は一切なし、足取りがおぼつかないヤバい女を支えなければならなかったその時の理寛寺は、今この状況よりさらに数段階は辛かっただろう。(幸いなことに聖宮生徒には見られていなったっぽい)
→〇ーソン到着、ヤバい女は店内に入るなりカゴを持って菓子コーナーへ突撃、手当たり次第無造作に菓子をカゴにぶち込み、理寛寺を無視してレジへと向かう、慌ててついていく理寛寺。
→「お会計は5624円です」という店員の宣告に心配になる理寛寺に向けてヤバい女は「……お金ない。荷物全部学校に置いてきたわ……………」 と衝撃の事実を口にする。流石の理寛寺も思考停止状態に陥るが、店員の迷惑そうな目を見てしまえばとりあえずPayPa〇で立て替えるしかない。
理寛寺(殺気MAX)「……思い出してきたら本当に殺したくなってたんですけど、殺っていいですか?」
私(以下略)
→当然のように受け取るヤバい女は、またもや理寛寺を無視してロー〇ンを出て(微かに笑みを浮かべながら)「……ありがとぉ……いいひと……またいつか………」と勝手にフェードアウトしようとする。
→とっとと立ち去れ迷惑女と心のなかで吐き捨てヤバい女と別れようとする理寛寺だが、直前で踏みとどまり「いや金返せや!」と素でツッコむ、ヤバい女「……5000円も持ってない……いえにならある、けど…………」
理寛寺(神妙な顔で)「………………」
私 死んでいる
→理寛寺「?????」ヤバい女(フラフラとした足つきで逃亡を図る)「ぃまはむりぁ…………次、会ったとき返す……」理寛寺「おい待てよ」ヤバい女(会話が通じない)「…………」理寛寺(全てを諦めて)「……はぁ……じゃあまた今度絶対返してもらいますけど……一人で帰れるんすか……?」 ヤバい女「だいじょぶ……!」(だいじょぶじゃない)理寛寺「じゃあさよなら……?」
その後、理寛寺は学校に荷物を置いてきたことを忘れて駅方面に向かうヤバい女というかまぁ私を無理矢理学校へと向かわせ、そこで別れ、地獄から解放されたという。
別れた後、名前も連絡先も聞くのを忘れたことに気が付き、ヤバい女から無事お金を取り戻すことはできるのかと途方に暮れる理寛寺だったが、驚くべき早さで再会を果たす。
翌日、大寝坊をかまし、入学3日で大遅刻が確定したことに絶望しながら電車に揺られていると、髪の長い陰鬱そうな女(理寛寺評)が乗ってきたではないか。髪の長い陰鬱そうな女――――まぁそれが私だったわけだが。
理寛寺は万引きGメンの如き素早さで私を捕獲して財布を奪ったあと腹いせに四、五発殴りたかったらしいが、コミュ障陰キャオタクくんにそんなことが出来るわけもなく、チラチラと私を見て様子を窺っていたところ目が合い、そしてまぁいろいろあって現在に至るということだ。
つまり、恋愛にトラウマを持つ女が一目惚れをしてしまったことのショックにより気をおかしくし、何の関係もない見ず知らずの同学年の男にホラー体験をさせコンビニに無理矢理同伴させ5000円以上も菓子をタカり今度返すからと言って名前も連絡先も告げず去ろうとし、最後まで自分勝手に振舞った挙句、すべて記憶にございませんと言うのだ。
何が私のストーカーかもしれないだ、その前にそいつを巻き込んで散々迷惑をかけていたというのに。冗談抜きに警察に突き出されて大事になってもおかしくなかった。最後まで面倒を見てくれて、しかも半日耐えてくれてありがとう、そして本当にごめんなさい。
だが、私が今死にたくなっている理由は理寛寺の話を聞いて自分の痴態を知ってしまったことだけではない。
理寛寺の話を聞いている最中はまさに顔面蒼白思考停止だったが、話が終わってそれを飲み込もうとすると、頭の中に映画のダイジェストのように失ったはずの昨日の記憶が流れてきたのだ。
理寛寺と出会う前の記憶も、理寛寺と別れた後の記憶も、ところどころ断片的ではあるが、ほとんど思い出すことが出来た。自分でも理解しきれないくらい酷いものなのでここでは割愛させていただくが。本当に生きて帰れてよかった。
そう、ほとんど思い出すことが出来たのだ。あの運命的な瞬間のことも。
認めるしかない、殺したいけど。
あれは本物だって。
愛と青春のCoda なの @senpa2638i
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